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戻らないD/柊かがみ ◆gFOqjEuBs6




 嗚呼、こなた。
 私はあんたに、なんて謝ればいいんだろう。
 あんたは最後の最後まで、こんな私を信じてくれてた。
 人を殺めてのうのうと生きる、どうしようもないクズを救ってくれた。
 そして最後は無常にも、あの女の刃に――。

 混濁する意識の中で、柊かがみが思い出すのは最後に残った親友の事。
 青い髪の毛を揺らして、いつだって能天気に笑っていた。
 だけども、その笑顔は本当は誰よりも優しい笑顔で。
 アニメやゲームが大好きな彼女は、得意分野の話となれば何時にも増して笑顔になった。
 振り回されてばかりだったけど、あの子と一緒に居る時間は楽しかった。
 いつも素直になれなくて、怒ってばかりだったけど、今なら言える。
 私はあの子と、そして他の皆と過ごす時間が何よりも大好きだった。

(今更ズルいわよね、こんな事)

 自分でも分かる。ああ、分かっている。
 失った今となっては何を思おうと、何を言おうと、もう遅いのだ。
 かがみが伝えようとした言葉は永遠に伝える事は出来ないし、二度と話をすることも叶わない。
 だってそうだろう。いくら話したいと願った所で、いくら謝りたいと願った所で――。
 泉こなたは、もう居ない。遠い遠い、最果ての地へ旅立ってしまったのだから。

(嗚呼、私って馬鹿よね……ええ、大馬鹿よ……本当に、本当に……!
 あの子とは何度だって話すチャンスがあったのに……ええそうよ、あの時だって!)

 スバル・ナカジマとの一度目の交戦。
 あの時あの場所に泉こなたが居たのは間違いない。
 スバルだって、全力で自分の暴挙を止めようとしてくれた。
 だのに、馬鹿な自分は自分の心にまで嘘を吐いて、修羅の道を貫こうとした。
 中途半端な覚悟で、自分だけでなく、周囲まで騙し続けて。
 その結果が、泉こなたの哀れな死。

(あんなに簡単にっ……! あんなに呆気なくっ……! 圧倒的なまでに、容易くっ……!)

 頭に焼き付いて離れない、泉こなたの最後。
 死に損ないの自分を守る為に“生きる筈だった”彼女は死んだ。
 何人もの命を奪って、それでも許されようとしている愚かな自分の為に。
 あまりに無常。あまりに非情。あまりにも、哀れ過ぎる……!
 だから……だから私は、こなたを殺したアイツを――

 ――八神はやてを、この手でブチ殺すっ!!!

 湧き上がるのは怒りと憎しみ。
 それは泉こなたを奪われた虚無感と相俟って、壮絶なまでの愛憎へと変わっていく。
 もう枯れ果てたとばかり思っていたこの瞳からは、止めどなく涙が溢れ続ける。
 嗚呼、自分はまだこんなにも涙を流す事が出来るのだ。誰かの為に、泣く事が出来るのだ。
 なれば……なればこそ。自分はやらねばならない。この手で、この力で――
 家族も友も、何もかも失っても未だ消えぬ“友情”の為に。友への想いの為に。
 最後に残ったこの感情は、友の仇を取らんと熱く燃え滾っているのだ。
 ならば立ち止まってなどいられない。挫けてなどいられない。
 起ち上がるのだ。あの子との友情を果たすまで、何度だって。

(ええ、そうよ……そうと決めたら迷わない! 私はもう立ち止まらない!)

 涙は止まらない。
 湧き出る想いと激情は、どうしたって止められない。
 だけど、それでいい。これは柊かがみに残った、人としての最後の感情だから。
 この感情を抱えたまま、最後まで走り抜くのだ。例え刺し違える事になったとしても。
 そうだ。死ぬのが怖い訳じゃない。このまま何もせずに、黙って死ぬのが怖いのだ。
 こなたの命を踏み躙ったアイツに一矢報いる事無く、何の証も立てられずに死ぬのが怖いのだ。
 だからこそ――命を、魂を、自分を自分としている全てを賭けて、あの女だけはこの手で倒す!

(我儘かしら……?)

 ああそうだ。これは只の我儘だ。
 こなたがそんな事を望む筈がないなんて事は分かる。
 嗚呼、自分でも分かっている! 嫌という程に、分かっている!

(我儘よね……!)

 だけれど、もうこの身体は止まらない。
 もう二度と自分の心に嘘を吐いて生きて行くのは御免だから。
 罪を背負ってでも前に進みたい。その気持ちには一片の嘘も無い。
 だけど、その為に八神はやてを許すなんて事は出来ない。だから――
 だからもう一度だけ罪を犯す。あの女も罪も、全部背負って、それが今の自分だから。
 歪んでいると言われようと、クズだと罵られようと構いはしない。
 こればっかりは、誰でも無い自分自身で決めた意思だから!

(そうよねぇっ……!)

 嗚呼、ようやく気付いた。
 泉こなたの為だなんて言って、これは結局自分の為の戦いだ。
 友情の為だなんて言って、結局自分はあの女を許せないだけなのだ。
 だけど、それは意地だ。たった一つのちっぽけな意地(プライド)なのだ。
 自分が自分で有り続ける為にも、意地と力の全てを賭けて、あの女を倒す!
 その為に邪魔なら、目の前の壁もブッ潰す!

(さぁ、進むわよ……!)

 前に。ただひたすら、前に!
 最早涙を止める事すら考えずに、柊かがみは拳を握り締めた。
 白銀と黒のデルタの拳。それを大地に打ち付けて、ボロボロの身体を起こした。
 まだ戦える。戦える筈だ。自分はまだ、何一つ成し遂げてはいないのだから。
 この殺し合いの中で見付けた、たった一つの目的。最初で最後の、願い。
 復讐と言う名の自分勝手なエゴを押し貫く為に、もう一度立ち上る。

「ぬるいわね……甘くて、ぬるいっ!」

 痛みが何だ。苦しみが何だ。
 無惨な殺され方をしたこなたの痛みと比べれば。
 自分が殺した三人が受けた苦しみに比べれば。
 こんなものは致命傷でも何でもない。
 甘くて温い、陳腐なダメージだ。

「そんなになっても、まだ戦うんですか……?」
「ええ、そうよ……! そんなんじゃ、今の私は止められない……! この私は倒せない!」

 スバルの想いは伝わっている。
 自分があの女を殺したいと思っているのと同じくらい、スバルは誰にも傷ついて欲しくないのだ。
 だけど、それだけじゃない。あろうことか、目の前の女は救おうとしているのだ。
 その手で……救いようも無い、バカでクズで、どうしようもないこんな自分を。
 なのはと同じだ。優しくて、強くて、きっとこれからも沢山辛い経験をするだろう。
 だが、それでもスバルは止まらないのだろうと……そんな事は容易に想像できる。
 あいつはいい奴だ。どうしようもないくらい、真っ直ぐで、優しい御人好しだ。
 嗚呼……こんな出会い方をしなければ。もっと、もっと違う出会い方をしていたなら。
 きっと、これ以上無い程に良い友達になれた事だろう。

(でも、それは夢……儚い、夢)

 一緒に笑いあって、一緒にふざけ合って。
 一緒に他愛の無い日々を送って居られた事だろう。
 いや、きっとそれは只のIFではない。実際にあり得た事だ。
 何処かの世界で、きっと二人はもっと別な出会い方をしていた筈なのだ。
 こなたと、つかさと、スバルと、皆と――きっと、毎日楽しく過ごせた事だろう。
 こんな殺し合いにさえ放り込まれなければ、実現していたかもしれない夢。
 きっといつまでも続いていたであろう、幸せな日々……そんな現実。
 けど、それは今ここにいるかがみは永久に掴み取る事は出来ない、儚い夢。
 もう戻る事は出来ない。引き返す事は出来ない。退路等何処にも無い。
 だから戦うのだ。前に進む為に。最期まで自分を貫く為に。

「そう……ですか。まだ、やる気なんですね……!」
「当然でしょう……!? 何かさ……私はもう、負けらんないのよね……!
 クズだの何だの罵られようと……あんたをブッ倒してでも、アイツだけはこの手で殺さなきゃあ!」

 何度も立ち止まって、何度も負けた。
 自分の意思で戦おうとすらせずに、何度も地べたを舐めた。
 だけど、今回ばかりは違う。こればっかりは譲れない。誰が何と言おうと譲れない。
 柊かがみはクズだ。柊かがみはバカだ。どうしようもない、人殺しの狂人だ。
 嗚呼、何とでも言えばいい。バカだのクズだの人殺しだの、何だって受け入れてやる。
 それであの女を殺せるのならば、最早何だっていい。それが今の自分なのだ。

「なら、私ももう容赦は出来ない! 貴女が部隊長を殺すというのなら、その前に私が貴女を倒して見せる!」

 ああそうだ。それでいい。
 ここで引き下がろうものなら、拍子抜けだ。
 きっとこれで、柊かがみが誰かと気持ちをぶつけ合えるのは最後になるだろう。
 だから最後に戦うスバルにだけは、その真っ直ぐな気持ちを偽って欲しくはない。
 妥協も何も許さずに、ただひたすらに素直な気持ちをぶつけてくれる。
 八神はやてとの最後の戦いに赴く前に、スバルと戦えて良かったと思う。
 自分の意思で人を殺して、悪鬼へと堕ちてしまう前に――
 人として、最後に拳を交える相手がスバルで、本当に良かったと思う。

(……なんて、自分勝手よね。そんな事は分かってるのよ)

 嫌になる程、つくづく思う。
 本当に自分は自分の事しか考えていないのだな、と。
 スバルなら良かった。そんな物は逃げだ。ただの逃避だ。
 勝手に自分の最後の相手をスバルに押し付けて、勝手に一人で満足している。
 あんなになってまで戦うスバルの気持ちを理解していながら、自分はそれをスバルに押し付けるのだ。
 なんて醜い事だろうか。なんて卑怯な事だろうか。なんて自分勝手な事だろうか。
 だけど、それが今の自分。目の前のあいつとは、絶対に相容れる事の無い自分。
 相容れる事があり得ないのであれば、もう戦いしか残されてはいない。

「さあ、来なさいよスバル! あんたの魔法なんて、ぜんっぜん効いてないのよ!」

 嘘だ。効いていない訳がない。
 痛い程に、スバルの魔法はこの身に響いている。
 この言葉は、言うならばスバルへのメッセージだ。
 もっと全力で来い。もっと力を見せ付けろ。あんたの全てを私にぶつけてくれ。
 今の言葉には、そんな柊かがみの想いが痛いくらいに詰め込まれていた。
 その行動に恥じぬ様に、今にも倒れそうな身体に鞭打って、デルタは大地を蹴った。
 デルタが駆け出すと同時、スバルのジェットが轟音を掻き立てて噴射を開始。
 お互いがお互いの間合いに踏み込むのに掛る時間は、加速から一合まで数えてもほんの一瞬。
 何度目になるか分からないこの“一瞬”で、二人はお互いの力をぶつけ合うのだ。

「はあああああああああっ!!」
「うおおおおおおおおおっ!!」

 右の拳を振り上げ、真っ直ぐに突き出すデルタ。
 ジェットの加速をそのままに、魔力を込めた拳を真っ直ぐに突き出すスバル。
 歴戦の勇士に遜色無い見事なまでのパンチングスタイルで、二人の拳が激突した。
 黒いグローブを振り抜いたデルタと、蒼の魔力光を宿したスバルの拳。
 二つが激突した刹那、巻き起こるのは蒼の魔力による激しい爆発。
 拳に込めた魔力が、デルタと接触するや否や炸裂したのだ。

「なっ……!?」

 眩い魔力の光に、一瞬視界を奪われる。
 次いで、容易く吹っ飛ばされてしまう身体。
 宙を舞う速度は、錯覚であろうか、酷くスローに感じられた。
 夜空に煌めく無数の星。自分達を照らす、淡い月の輝き。
 それらに心奪われる余裕など与えられる訳も無く、デルタの視界を覆ったのは蒼の光。
 宙を舞うデルタの周囲360度。全方位、縦横無尽に駆け巡る、蒼の魔法陣。
 もう何度も目にした、ウイングロードだ。

「がっ……ぐっ……あぁっ――!!」

 次いで、身体中のあちこちが悲鳴を上げる。
 身動きの取れぬデルタでは対処しきれぬ、あらゆる角度からの攻撃。
 右斜め下から蹴り上げられたかと思えば、左斜め上から叩き落される。
 凄まじいまでの加速。知覚すら追い付かない、強烈なヒットアンドアウェイ。
 ウイングロードを縦横無尽に駆け巡り、何度も何度も、デルタの身体が宙を舞う。
 やがて攻撃が止まる。スバルも手負いの身だ。攻撃する側とは言え、体力にも限界があるのだろう。
 気付けば自分の身体は、空を翔けるウイングロードの内の一本に、力無く横たわっていた。

「ぐっ……スバ、ルぅ……」

 軽く寝返りを打てば、その身体は真っ逆さま。
 重力に引かれるままに、固い地面へと打ち付けられた。
 だけれど、それで終わりはしない。這う様に身体を引きずって、その身を起こす。
 拳で大地を殴りつけて、その反動でもう一度立ち上がったのだ。

「全く……何処まで強いのよ、あんたは……
 八神はやてなんかより、あんたの方が100倍は怖いわよ……!」
「あたしなんかに勝てないなら、八神部隊長と戦おうなんて止めた方がいいですよ」
「ええ、分かってるわよ! アイツがあんたと違うって事は!」

 きっと八神はやては、最初から自分を殺すつもりで来るだろう。
 どんな状況にあろうと絶対に人を殺めはしないであろうスバルとは、決定的に違う。
 あの非情さ。冷徹さ。冷たさ。何を取っても、スバルのそれとは比べ物にならない。
 想いを乗せてぶつけるスバルの攻撃は、どれも温かいのだ。それこそ、ぬるいくらいに。
 だけど、あの女は違う。こなたを殺したあの攻撃は、凍て付く様に冷たかった。
 だが、それだけの話だ。そんな事で立ち止まるつもりはない。
 スバルに勝てないのならあの女にも勝てない? ならばスバルを倒すまでの話。
 嗚呼そうだ。もう、この想いに迷いは無いのだ。一片たりとも……!

「だからさぁ……こんなんじゃ終われない……! 終われないのよっ!!」

 デルタの大容量コンピュータが、かがみの脳に絶えず情報を送ってくれる。
 戦う為の技術。理想的な反射。勝つ為の法則。そしてデルタのシステム概要。
 この状況に於いての、最良の判断。それらが、システムと同調したかがみの脳へと直接流し込まれる。

「――おおおおおおおおっ!」

 かがみの頭に煩いくらいに響き渡る、スバルの絶叫。
 ウイングロードから飛び降りたスバルが、右の回し蹴りでデルタを蹴り飛ばそうと迫る。
 デルタのシステムが教えてくれる、理想的な回避の手段。攻撃を受ければ受ける程、デルタは学習するのだ。
 対してスバルは、骨折と戦闘によって体力を消耗し、技を繰り出す度にその鋭さを鈍らせている。
 落ち着いて対応すれば、回避できない攻撃では無い。
 上体を屈めて、スバルの蹴りを回避した。

「……かわされた!?」

 心の中で呟いたのであろう言葉が、早口に口から紡ぎ出される。
 当然だ。誰も今のデルタにスバルの攻撃を回避出来る等とは思わない。
 それを成したのは、スバルの想像を超えたライダーズギアの装甲。
 そして、理想的な兵士を生み出す為のシステム……デモンズスレート。
 対するデルタは、バネの様に状態を伸ばした。
 空中で蹴りを空振ったスバルへと繰り出す、右のアッパー。

「あぐ……っ!?」

 腹部から突き上げられたスバルの身体が、宙を舞った。
 刹那、がら空きになった守り。連撃を叩き込むなら、これ以上のチャンスは無い。
 そして今のデルタになら、それが出来る。格闘における連続攻撃のやり方は、最高の相手から教わった。
 何度も何度も繰り出されたスバルの連撃を、かがみとデルタはその身体で、痛みと共に覚えたのだ。
 スバルの動きを、そのままコピーする様に……繰り出す攻撃は、右の回し蹴り。

「はっ!」
「ぐっ……ぁ――!」

 重力に引かれて落下するスバルの胴体に、重たい回し蹴りが炸裂した。
 生身とは言え、スバルの身体はデルタの攻撃を耐え切れる。だから、手加減もしない。
 どごんっ! と、不吉な音を立てて、デルタの右脚装甲が、スバルの身体を吹っ飛ばした。
 近くの岩場に激突したスバルの身体は、軽く痙攣して、すぐに立ち上がる。

「やっぱり、今のあんたは万全じゃない! これなら!」
「今のあたし達の戦力は……互角!」

 憎々しげに、スバルが告げた。
 スバルの判断は正しい。事実として、発展途上のデルタにもそれ程の技量がある訳ではないのだから。
 その上、見ればスバルの左腕は骨折している様に見える。そんな状態でであれだけ動いていたのだ。
 何という体力か。何という精神力か。やはりスバルは只者では無いと認めざるを得ない。
 だけども、それでも骨折による体力の消耗は半端な物ではない。
 ここまでデルタと互角以上に戦って、体力がろくに残っている訳がないのだ。
 ならば、自分にも勝機はある。デルタが教えてくれるデータによれば、自分にはまだ奥の手がある。
 それをスバルは知らない。デルタが持てる最大の必殺技を、奴はまだ知らないのだ。

「終わりにしよう、スバル……これ以上戦ったら、あんたは壊れてしまう!」
「そんな事、構うもんか! あたしは死なない……あたしはまだ、夢を叶えて居ないから!」

 その夢の為に、スバルは死さえ厭わずに自分に向き合ってくれているというのか。
 何て真っ直ぐな少女なんだろう。何でそんな事が出来るんだろう。
 考えれば考える程に、スバルの優しさに触れそうになる度に、涙が止まらなくなる。
 嗚呼、もう終わりにしよう。こんな苦痛は、終わらせてやろう。
 それがスバルに出来る、唯一の恩返しだ。

「行くわよ……スバルッ!!」

 かがみの絶叫を皮切りに、最後の戦いが始まった。
 この夜空を縦横無尽に駆け巡る蒼き光の魔法陣。先程までに展開を続けて来たウイングロードだ。
 天にだって届くのではないか。この大空を、何処までだって走って行けるのではないか。
 そんな錯覚さえも覚えるウイングロードに、デルタとスバルは飛び乗った。

「はぁあああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

 重なる絶叫。
 相反する想いを賭けた、壮絶な激突。
 縦横無尽の翼の道を、跳び移り、駆け廻り、何度も何度も拳を交える。
 スバルが拳を振るえばデルタの腕に阻まれる。デルタが蹴りを放てばスバルが回避する。
 スバルが魔力を解き放てば、腰にマウントされた銃から放たれる光弾がそれを相殺させる。
 何度も何度もぶつかり合って、それでも二人の攻撃は一向にお互いの身体へ命中しない。
 一進一退。攻めては守られ、守れば攻められの攻防が続いた。
 そうしている間に、果てしない程の時間が流れてゆく。
 それでも白黒ハッキリ付けるまで、二人の身体は止まらない。
 この手に勝利の二文字を掴み取るまで、二人の殴り合いは終わらない。
 だが。

「おおおおおおおおおおおッ!!」
「えっ――」

 戦いの終幕は、唐突に訪れる。
 何度も何度もウイングロードの上で戦いを繰り返した。
 魔力を、フォトンを爆発させて、何度も何度も殴り合った。
 その果てに、劣化したウイングロードはデルタの体重に耐えられなくなっていたのだ。
 スバルのパンチを防ぐと同時。パンチの衝撃を受けたデルタの足場が、崩れ去ったのだ。
 天高く、まるで蜘蛛の巣の様に張り巡らされたウイングロードから、落下するデルタ。

「――まだよっ! まだ、終わらないっ!!!」

 嗚呼、だけどもこの死に損ないの身体は、そんな事では挫けてくれない。
 立ち止まってもくれないし、スバルの想いに負けてくれるなんて、もっとあり得ない。
 嗚呼そうだ。こんな下らない事で、何も成し遂げられぬままに負ける事など出来る訳がないのだ。
 空中で姿勢を制御したデルタが、すぐ下方に展開されていたウイングロードに着地した。
 だけど、これで隙は出来た。スバルがデルタに一撃を撃ち込むには十分過ぎる隙が。
 ならばもう回避をする必要も無い。もうこれ以上、こんな戦いを続ける必要も無い。
 終わらせよう。この泥沼のような戦いを。

「チェック、メイトよっ! スゥゥゥバァァァァルッ!!」

 ――Exceed Charge――

「うおおおおおおおおおおおおりゃぁああああああああああああああああッ!!」

 デルタムーバーの銃身が、ガチャンと音を立てて伸びた。
 スバルの左腕に装着されたストラーダが、ガシャンと音を立てて弾丸を排出した。
 真上へと跳び上がったデルタと、真っ直ぐに走り続けるスバル。
 スバルの右腕には、今までと同じ要領で、蒼の光が集束していく。
 一方で、空に舞い上がったデルタの身体を駆け巡るのは、白銀のフォトンブラッド。
 ベルトから駆け廻った光は、ブライトストリームを通して、右腕のデルタムーバーへと送られてゆく。
 やがて、変形したデルタムーバーの銃口から発射されたのは、一発の光弾であった。
 螺旋を描きながらスバルへと迫る光弾に対して、スバルはその右腕を一気に振り抜いた。
 あの光弾ごと、その先のデルタを吹き飛ばすつもりなのだろう。だけれど、それはミスだ。
 されど、そのミスを笑う気にはならない。本当に、最後まで真っ直ぐな戦い方をする奴だと、かがみは思う。

「なっ……なに、コレ……!?」

 スバルが驚くのも、無理は無い。
 身体を動かそうにも、その身体が動かないのだ。
 魔力を撃ち放とうにも、それ以前に右腕が自由に動かないのだ。
 それこそが、デルタの持てる最大の必殺技。何体ものオルフェノクを葬って来た、最強の必殺技。
 それを放つ為の第一段階。スバルの眼前に、光り輝く逆三角錐が形成された。
 まるで頂点はスバルに突き刺さるかの様に。底辺はデルタの身体を待ち受けるかの様に。
 ドリルの如き高速回転を始めた逆三角錐に向かって、デルタは真っ直ぐに両足を突き出し――

「やぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」

 逆三角錐の底辺へと、跳び込んだ。




 空に輝くウイングロードは、もうない。
 何処までも真っ直ぐだった少女は、もういない。
 思えば、さっきまでは随分と騒々しかったなと思う。
 空は一面、何処を見渡しても蒼く輝く光の道。
 耳に入って来るのは、口煩い女の叫び声。
 少女の絶叫を聞く度に、その言葉がかがみの胸へと突き刺さる様だった。
 もううんざりだ。あんな御託をいつまでも聞き続けていては、ノイローゼになってしまう。
 だけれども、かがみはスバルに対して、一片たりとも怨みの感情を抱いては居なかった。

「ありがとう、スバル」

 右腕に掴んだ少女に、一言礼を告げた。
 この子が居てくれて、本当に良かったと思う。
 まさかこの殺し合いに放り込まれてから、自分がこんな気持ちで戦える等とは夢にも思って居なかった。
 最後に触れ合えた人間らしい相手。彼女が居たから、彼女の名前をこの胸に刻み付けたから。
 かがみはもう、何の迷いも無く前へ進む事が出来る。

「スリー、エイト、トゥー、ワン」

 左腕に携えたデルタムーバーへと、何事かを告げた。
 それは、来るべき最後の戦いに於いて、必要となるであろう戦力。
 殺す事に何の躊躇いも持たない、あの悪魔の様な女に何処まで通用するかは分からない。
 だけれども、それでも無いよりは幾分かマシだった。
 そうだ。これはかがみが自分自身の因縁に決着を付ける為に必要な、空への翼。
 この大空を自由に跳び回るあの女に届く為に、必要な翼なのだ。

「私はもう行くから……さよなら」

 スバル・ナカジマの身体を、大穴が空いた洞穴へと投げ込んだ。
 八神はやての攻撃でその入り口を閉ざし、スバルの攻撃で再び道を開いた洞穴へと。
 否……それは只の洞穴ではない。スカリエッティのアジトと言う、立派な名前を与えられた施設だ。
 きっとこのアジトの中なら、どんなに激しい戦いが起こっても飛び火する事はないだろう。
 この中に隠れて居れば、きっとこれ以上スバルの身体が傷つく事はないから。
 最後に眠る様に横たわるスバルへと一瞥し、デルタは歩き出した。

 柊かがみはもう居ない。
 何もかもを捨てて、彼女は魔人となったのだ。
 己の信念を貫いて戦った戦士達の戦いの果てに、勝者は居なかった。
 事実上戦いに敗北したスバルは勿論の事、柊かがみという一人の少女も、居なくなったのだから。

「ええ、そうよ。私はもう柊かがみなんかじゃない。
 復讐の為だけに戦う一人の仮面ライダー、デルタ」

 それだけで、十分だ。


【2日目 早朝】
【現在地 C-9】

【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】疲労(大)、全身ダメージ(大)、つかさとこなたの死への悲しみ、はやてへの強い怒り、デルタに変身中
【装備】とがめの着物(上着のみ)@小話メドレー、デルタギア一式@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】なし
【思考】
 基本:はやてを殺す。
 1.はやてを殺す。
 2.1が叶えば、みんなに身を委ねる。
【備考】
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています(たびかさなる心身に対するショックで思い出す可能性があります)。
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※第4回放送を聞き逃しました。その為、放送の異変に気付いていません。
※デルタのシステムと完全に同調しました。




 月夜が照らす市街地に、その建造物はあった。
 未だかつて誰も踏み居る事無く、奇跡的にも傷を負う事の無かった施設。
 周囲の高層ビルがちっぽけに見えてしまう程、巨大なビル。
 かつてとある世界において、最先端の技術を世に送り出し続けていた企業。
 その本社ともなれば、豪華絢爛の限りを尽くした造りになるのは当然の事。

 そんなビルに――スマートブレイン本社ビルに今、異変が起ころうとしていた。
 ゴゴゴゴゴ、と鳴り響く地響き。それは周囲のビルにまで響き渡り、小規模な地震と勘違いしてしまう程だった。
 スマートブレインのビルの側面……一面に張り巡らされた窓ガラスが、音を立てて割れて行く。
 耐震性、テロ行動。あらゆる状況に備えて造られたビルが、遂に耐える事敵わなくなったのだ。

 そもそも、何故このデスゲームにこの施設が設置されたのか。
 全てのライダーベルトは参加者に支給され、それ以上の道具はこの会場には存在しない。
 それならば、ライダーズギアシステムを開発したこの企業がここに存在する理由など、何処にも無い。
 せめて本社内部に未だ参加者の知り得ぬライダーズギアが有るのならば話は別だが。
 そしてその答えが今、明かされる。

 それは空で戦う術を持たぬ戦士の為に開発された翼。
 圧倒的なスピードと、圧倒的なパワーを持って、敵を殲滅する為に開発された兵器。
 スマートブレインモータースが誇る、最高の技術の粋を凝らして造られたスーパーマシン。
 今この瞬間、スマートブレイン本社の壁をぶち壊して、“それ”が姿を現した。
 コンクリもガラスも、全てを粉々に粉砕して、この地上に解き放たれた。
 “それ”を持つべき者が、“それ”の力を必要としているから。

 だから“それ”行く。
 戦場と化した北東へと、その轟音を響かせながら。
 空中をホバリングしながら旋回。次の瞬間には、大出力のジェットを燃やしていた。
 時速1300kmを誇る“それ”ならば、すぐに主人の元へと駆け付ける事が出来るだろう。

 マシンの名はジェットスライガー。
 最後の戦場へ赴くデルタの為に。
 飛び立てないデルタの翼となる為に――。


【全体の備考】
※F-5からC-9へとジェットスライガーが向かっています。
※アジトの入口に再び穴が空きました。




「う……ぐっ……」

 目を覚ませば、そこは薄暗い闇の中であった。
 こんな洞穴の中だ。夜である事も手伝って、内部まで光は届かない。
 どうやらこの洞穴の中に元々あった筈の光源も、八神はやての攻撃で破壊されてしまったらしい。
 だけれど、破壊されたのはアジトの入口付近だけなのだろう。
 奥を見れば、少しずつ明るくなっているのが見える。

「そう、だ……かがみさんは……!」

 そうだ。自分は、スバル・ナカジマは、先程までかがみと戦っていた筈だ。
 それがこんなアジトの中に放り出されているとは、一体どういう事なのであろうか。
 その答えを見付ける為にも、重たい身体を持ち上げて、立ち上がろうとするが――

「――つっ……!」

 身を裂く様な激痛。
 左腕の骨折個所だけでなく、体中のあちこちが悲鳴を上げていた。
 身体を起こそうとすれば、上半身が……恐らく内部フレームが痛む。
 立ち上がろうとすれば、二本の脚が軋みを上げて、がくがくと震え出す。
 無理に戦闘を続けようとすれば、全身が砕けてしまうのではないかと。
 そんな錯覚すら覚えてしまう程に、スバルのコンディションは絶望的だった。
 当然のように、こんなコンディションでは戦闘どころでは無い。
 かがみ達を止めるどころか、足手まといも良い所だ。

(こんな時に……! なんて、不甲斐ない……!)

 右腕で、地べたを殴りつけた。
 悔しい。自分の力が必要とされるこの局面で、自分は何も出来ないのだ。
 かがみを止める為に戦うつもりが、逆にかがみに破れてしまったのだ。
 こんなに不甲斐ない事があろうか。こんなに情けない事があろうか。
 自分を責め立てて、自己嫌悪に陥る。

(でも……どうしてあたしは生きているんだろう)

 今のかがみに、人の言う事を聞く余裕など存在しない。
 目の前の敵を叩き潰して、その先へと進む。最早それしか頭に無かった筈だ。
 きっとあの状況のかがみならば、相手を殺す事も厭わないと思っていた。
 それ故に、かがみとの戦いに負ける事は即ち死を意味するのだと思っていた。
 だけれども、自分は生きている。今こうして、この場所に存在している。
 それは何故かと考えて……そして、思い出す。

(そうだ……かがみさんは、あの時わざと……!)

 最後の瞬間、柊かがみは――


「やぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」

 デルタが、逆三角錐へと跳び込んだ。
 逆三角錐の頂点は、スバルの身を抉るドリルの如く回転を続ける。
 身を削らんと迫る蒼紫の光のドリル。だのに、スバルの身体は身動き一つ取れはしない。
 このままでは、自分は死ぬ。圧倒的な力の前に、このまま成す術もなく殺されてしまう。
 だけど、そんなスバルの運命を変えたのは、一人の少女の意思だった。

「ぐっ……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 聞こえる絶叫。
 それはスバルのものではない。もう一人の少女が発する声。
 まるで何かに抗う様に。何かの力に立ち向かう様に。
 低く、唸るような声の発生源へと、スバルは視線を向けた。

(かがみさん……まさか……!)

 少しずつ、頂点の座標がズレてゆく。
 スバルに突き刺さらんばかりの軌道で迫っていた逆三角錐が、ブレていく。
 何故だ。このままその光のドリルを突き出せば、スバルの命は散ると言うのに。
 柊かがみの勝利は揺るがぬものになるというのに。
 それなのに……それなのに、何故!

(かがみさん……貴女は、あたしを……)

 それ以上の出来事を考える事は敵わなかった。
 蒼紫の光のドリルが、スバルから見て左側を通過したのだ。
 だけども、通過と言ってもただ攻撃が外れた訳ではない。それでは意味がないからだ。
 スバルへと迫る蒼紫は、スバルの身体に触れか否かのギリギリを走り抜けて行った。
 犠牲になったのは、左腕に装着していたストラーダ。
 巨大なドリルとなって迫るデルタが、ストラーダを砕いて粉々にしてゆく。
 ここまで共に闘ってくれたストラーダの最期。されど、衝撃はそれだけにあらず。
 外れたとは言え、絶大な威力を誇る必殺技がスバルの身体へ与えた衝撃と振動は半端な物では無かった。
 それこそスバルの持つIS――振動破砕をまともに食らうのと、遜色無い程の威力。
 そんな衝撃を……身体がバラバラになりそうな程の振動を、スバルは身体に叩き込まれたのだ。
 だけど、結果としては――。


 ――柊かがみはスバルの命を奪わなかった。

 それが事の真相。それがこの戦いの決着。
 だけど、スバルの身体にもう戦う力などは残されていない。
 骨折した左腕。蓄積された疲労。デルタから受けた攻撃の数々。
 それらはスバルの身体を蝕み、今では最早動くだけでもフレームが軋みを上げる。
 このままでは、戦い以前に、その場にいるだけでも足手まといだ。
 だけど――。

「まだ、方法はある……!!」

 ここは、スカリエッティのアジト。
 壊れた戦闘機人を修理し、メンテナンスまでもこなせる施設。
 13体ものナンバーズを修理するだけの技術と設備が整っているのだ。
 この左腕を直して、もう一度戦えるレベルまで修復する事だって、不可能ではない筈。
 いいや、この際贅沢は言わない。完全回復でなくたって構わない。
 足手まといにならない様に、最低限戦う事が出来ればそれで良いのだ。
 そうと決めれば迷いはしない。

「早く、しないと……!」

 自分がどれ程寝ていたのかは分からない。
 だけど、デルタとの戦いは相当な時間を掛けた覚えだけはある。
 その間に戦っていたのは、高町なのはと八神はやて。ストライカー魔道師二人。
 Sランク魔道師二人が全力で激突したとあれば、一体どんな結末が訪れるのかなどスバルにも分からない。
 だけれども、デルタがスバルを倒した時点で、二人の決着も付いていた可能性もある。
 そこに加えて、自分はこんな大切な時に眠っていたのだ。
 何分、何時間寝ていたのかは分からないが、最悪の事態に陥っている可能性もある。
 ――既に全ての戦いが終結し、誰一人生き残ってはいないという可能性。

「そんなのは、嫌だ!」

 だから、スバルは今の自分に出来る事をする。
 今は一刻も早くこの身体を修理して、すぐに戦場に戻らなければならない。
 せめて足手まといにならないだけの力を、もう一度手に入れる為に。
 自分の夢を果たす為にも、こんな所で立ち止まってはいられないから。
 その想いを胸に、スバルは壁へと寄りかかり、少しずつ奥へと歩を進めて行くのであった。


【2日目 早朝】
【現在地 C-9 スカリエッティのアジト内部】

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(大)、魔力消費(大)、全身ダメージ(大)、左腕骨折(処置済み)、悲しみとそれ以上の決意
【装備】ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レヴァンティン(待機フォルム、0/3)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、治療の神 ディアン・ケト@リリカル遊戯王GX
【道具】なし
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
 1.一刻も早く身体を修理し、戦場に戻る。
 2.ヴァッシュと天道を探して、駅でユーノ達と合流する。
【備考】
※金居を警戒しています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※ストラーダはルシファーズハンマーによって破壊されました。


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