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Last update 2007年10月13日

似た者同士の恋愛譚 著者:知


 「性格というものはなかなか変えられないものなんですよ」
彼はそう呟くと微苦笑を浮かべた。
 何も知らない人が今の彼の顔を見たら微笑んでいるとしか見えないかもしれない。
 でも、わたしにはそれが微苦笑にしか見えなかった。


 彼のこんな顔を見るために彼を呼び止めて話しをしたわけではなかったのに……
 どうしてこんな事になったのかなぁ……


 何時ものように皆と一緒に帰ることになって
 何時ものように皆と晩御飯を食べることになって
 何時ものように皆とカラオケに行こうということになった。

 ただ何時もと違ったのは、わたしと彼がカラオケに行かずに帰ったということ。
わたしは明日に朝からバイトが入っているからカラオケは断った。行くと家に帰りつくのが明日になるのはわかっていたから。 彼は「レポートがあるから」と言って断っていた。
 でも、それはたぶん嘘だ。

……嘘と言うのは言いすぎかな……

 レポートがあるのは本当。でも、そのレポートを書くのは今日でなくてもいい物のはず。
 彼の性格からすると、本当に今日書かなければいけないレポートだったら晩御飯を食べに行く時点で断ってるはずだから。
 もし、わたしがカラオケに行くと言っていたら彼も行っていたと思う。
 そして、カラオケに行かないと言ったのがわたしでなくても彼はカラオケに行っていなかったと思う。
 彼はそんな人なんだよね。


 わたしが彼に惹かれている事に気づいたのは友達に「彼のことが好きなの?」と聞かれたときだった。
 そのときは否定したけど、わたしは間違いなく彼に惹かれている。

 『人を好きになるということは自覚も覚悟も出来てる状態』

 誰かから聞いた言葉かそれとも本で見た言葉か忘れたけどわたしが凄く納得している言葉。
 人を好きになりかけているのは“知りたい”とか“過ごしたい”という願望の状態。
 人を好きになっているのはその願望から行動に移せるようになった状態。でも、その移行はとても怖いこと。
 だって行動で示せば、自分の気持ちを相手に知られてしまうし、知られたら相手も自らの気持ちを出すことで対応するしかない。
 そうすると、その結果として好きになった人が自分を好きでいるかどうかが分かってしまう……それはとても怖いこと。
 だからこそ、自覚と覚悟……

 わたしにはその覚悟がない。勇気がない。
 彼が時々見せるあの冷たい眼……彼から拒絶されるということはあの眼が向けられるということになるんだと思う。
 わたしにはそれが耐えられそうにない。
 確かに彼は時々あの冷たい眼をすることがある。でも、それは本当に一瞬ですぐに何時もの眼に戻る。
 もし、あの冷たい眼が数秒でも向けられたら、わたしは暫くその場に凍り付いてしまうだろう。
 そして、その後、彼を見かけても話しかけることが出来なくなってしまうと思う。


 今日、わたしはかけなしの勇気を振り絞って彼を呼び止めて話しをした。
ただ話しをしているだけなのにどうしてこんなに心臓がドキドキしているんだろうと自分で情けなくなるくらいに、心臓はドキドキしていた。
 それが彼に知られていないか、そんな事を心配しながら話しをしているのは本当に幸せだった。
 話しをしているうちに、わたしが少しでも手を動かせば彼の手に触れることができるくらいまで彼との距離が近づいていた。
 それを意識しだしてからわたしが彼に何を話したかはっきりと覚えていない。かなりわたしは舞い上がっていた。

 彼を呼び止めて話しをしたと言っても、少しでも長く彼と話したり一緒にいたかったからといった理由があって彼を呼び止めたわけではなかった。
分かれ道で彼が去っていくのを見ていると口がわたしの意思とは関係なしに呼び止めていた。

 その理由が今の彼の顔を見てなんとなくわかった気がする。

 わたしは弱い。だから彼に強くなるから、などとはとてもいえない。
 でもわたしは彼にわたしの意気地のなさを認めてほしかったんだ。





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