Last update 2007年10月27日
屋上 著者:暇子
もう少しで、あのらせん階段の上の扉、あけることができたのに。
という所で、胸ポケットの携帯が震えた。
相手は確認するまでもない。
毎日決まって昼休みにかけてくる。
という所で、胸ポケットの携帯が震えた。
相手は確認するまでもない。
毎日決まって昼休みにかけてくる。
「もしもし」
と、僕がこんな短い言葉を言い終わるより先に、
電話の向こうは早口で話し始めた。
「アツシちゃん!お勉強頑張ってる?お弁当はもう食べたの?
お母さん期待してるからね!」
「大丈夫だよ、母さん」
そう言って電話を切り、電源も切っておいた。
今日の携帯の役目はもう終わりだ。
と、僕がこんな短い言葉を言い終わるより先に、
電話の向こうは早口で話し始めた。
「アツシちゃん!お勉強頑張ってる?お弁当はもう食べたの?
お母さん期待してるからね!」
「大丈夫だよ、母さん」
そう言って電話を切り、電源も切っておいた。
今日の携帯の役目はもう終わりだ。
改めて、屋上への錆び付いた格子扉を開けた。
学校の屋上・・・僕は毎日昼休みにココへ来る。
二年前自殺者が出たせいで、屋上へは立ち入り禁止になっている。
僕が入学前の事だからどんな事件だったのかは知らない。
校舎の中からは鍵がかかっているが、屋外のらせん階段から上って来れる事はきっと誰も知らないだろう。
「老朽化により使用禁止」という札が下がって鍵がかかっているが、
その鍵も老朽化で容易く開いてしまうのだ。
学校の屋上・・・僕は毎日昼休みにココへ来る。
二年前自殺者が出たせいで、屋上へは立ち入り禁止になっている。
僕が入学前の事だからどんな事件だったのかは知らない。
校舎の中からは鍵がかかっているが、屋外のらせん階段から上って来れる事はきっと誰も知らないだろう。
「老朽化により使用禁止」という札が下がって鍵がかかっているが、
その鍵も老朽化で容易く開いてしまうのだ。
屋上の澄んだ空気を思いっきり吸うと、僕はポケットから煙草の箱を取り出した。
高校二年・優等生。
『君は我が校始まって以来の秀才だよ』
『君には期待しているよ』
『アツシちゃんはお母さんの希望よ』
『アツシ君は頭がいいから何もしなくても成績いいから羨ましいな』
『お前は将来が約束されてるからいいよな』
毎日毎日僕の身体に蓄積されてゆく、こんな汚れた言葉達。
こいつらを、肺の中の汚れた空気と一緒に吐き出す。
こうやって1日のプレッシャーをリセットする。
いつからか僕の唯一の楽しみになっていた。
高校二年・優等生。
『君は我が校始まって以来の秀才だよ』
『君には期待しているよ』
『アツシちゃんはお母さんの希望よ』
『アツシ君は頭がいいから何もしなくても成績いいから羨ましいな』
『お前は将来が約束されてるからいいよな』
毎日毎日僕の身体に蓄積されてゆく、こんな汚れた言葉達。
こいつらを、肺の中の汚れた空気と一緒に吐き出す。
こうやって1日のプレッシャーをリセットする。
いつからか僕の唯一の楽しみになっていた。
「あれ・・・」
ライターが付かない。
ああ、そういえば昨日ガスが切れかかっていた気がする。
しまった。
ライターが付かない。
ああ、そういえば昨日ガスが切れかかっていた気がする。
しまった。
「ハイ」
後ろからイキナリ声がして、僕はビックしりして振り返った。
一人の女生徒が僕にライターを差し出している。
いつの間にそこに居たのか、どこから上って来たのか。
(まぁ、僕のように屋外のらせん階段から来たのだろうが・・・)
そんな事はどうでも良かった。
後ろからイキナリ声がして、僕はビックしりして振り返った。
一人の女生徒が僕にライターを差し出している。
いつの間にそこに居たのか、どこから上って来たのか。
(まぁ、僕のように屋外のらせん階段から来たのだろうが・・・)
そんな事はどうでも良かった。
この僕が、煙草を吸っている。
この事実を見られたことに動揺を隠せなかった。
こんな事がバレたら・・・どうしよう・・・どうしよう・・・。
オロオロする僕に、彼女は不思議そうな顔で言った。
「ライター、切れてたんでしょ?貸してあげるよ」
「ぼ、僕が煙草を吸っているのを・・・何とも思わないのか?」
「だって、アタシも吸ってるし。お互い様よ」
確かにそうだが・・・煙草なんて誰でも吸ってそうだけど・・・
「僕を、知らないの?」
「なに?アナタそんなに有名人なの?」彼女は笑った。
学校中が注目する優等生、なんて驕りすぎかも知れないけど・・・。
意外と他の学年なら僕を知らない生徒もいるかも知れないな。
「キミ、何年生?」
「二年。」
一緒だ!
じゃあ何で知らないんだ!?
こんな事がバレたら・・・どうしよう・・・どうしよう・・・。
オロオロする僕に、彼女は不思議そうな顔で言った。
「ライター、切れてたんでしょ?貸してあげるよ」
「ぼ、僕が煙草を吸っているのを・・・何とも思わないのか?」
「だって、アタシも吸ってるし。お互い様よ」
確かにそうだが・・・煙草なんて誰でも吸ってそうだけど・・・
「僕を、知らないの?」
「なに?アナタそんなに有名人なの?」彼女は笑った。
学校中が注目する優等生、なんて驕りすぎかも知れないけど・・・。
意外と他の学年なら僕を知らない生徒もいるかも知れないな。
「キミ、何年生?」
「二年。」
一緒だ!
じゃあ何で知らないんだ!?
少し考えて、僕は背筋が凍りついた。
ま さ か ・・・
『二年前の自殺者』
っていうのが、彼女なのだろうか?
でもそう考えると落ち着いてきた。
幽霊の存在を信じているわけではないけれど、
もしそうなら僕が煙草を吸っていた事をチクられずに済むわけだ。
今の僕にはそっちの方が都合が良かった。
ま さ か ・・・
『二年前の自殺者』
っていうのが、彼女なのだろうか?
でもそう考えると落ち着いてきた。
幽霊の存在を信じているわけではないけれど、
もしそうなら僕が煙草を吸っていた事をチクられずに済むわけだ。
今の僕にはそっちの方が都合が良かった。
「ありがとう、借りるよ」
そう言って彼女の手からライターを受け取り、煙草に火をつけた。
そう言って彼女の手からライターを受け取り、煙草に火をつけた。
「どうして・・・」
死のうと思ったの?と尋ねようとして止めた。
こういう存在は、自分が死んだ事を知らないから現れるって聞く。
「何か言った?」
「うん、いい天気だねって。」
僕達は他愛も無い会話を交わし、その場を去った。
不思議と『怖い』という感情は無かった。
死のうと思ったの?と尋ねようとして止めた。
こういう存在は、自分が死んだ事を知らないから現れるって聞く。
「何か言った?」
「うん、いい天気だねって。」
僕達は他愛も無い会話を交わし、その場を去った。
不思議と『怖い』という感情は無かった。
翌日。
いつもの母親からの電話を切った後、屋上へ。
また彼女が居た。
そしてまた僕はライターを買い換えるのを忘れていたようだ。
「ごめんごめん、キミが居てくれて良かったよ」
また彼女に借りる事になるとは・・・。
「学年末テストが最悪だったの」
「それは困ったね!」
毎度の事だが僕が学年トップだったのは、隠しておこう。
いつもの母親からの電話を切った後、屋上へ。
また彼女が居た。
そしてまた僕はライターを買い換えるのを忘れていたようだ。
「ごめんごめん、キミが居てくれて良かったよ」
また彼女に借りる事になるとは・・・。
「学年末テストが最悪だったの」
「それは困ったね!」
毎度の事だが僕が学年トップだったのは、隠しておこう。
また翌日。
母親の電話・屋上・彼女。
いつもどおりの昼休みに、彼女がプラスされて来ている。
「あれ・・・そうだった」
またライターが切れたままだ。
ココでしか煙草を吸わないからだろう、買い換えるのを忘れてしまう。
「もうすぐ4月。三年になったら受験とか大変だろうなぁ。」
彼女がため息をつく。
『三年になったら・・・』
僕は何て返したらいいのか迷いながら、
「お互い、頑張ろうね」と無難に言っておいた。
母親の電話・屋上・彼女。
いつもどおりの昼休みに、彼女がプラスされて来ている。
「あれ・・・そうだった」
またライターが切れたままだ。
ココでしか煙草を吸わないからだろう、買い換えるのを忘れてしまう。
「もうすぐ4月。三年になったら受験とか大変だろうなぁ。」
彼女がため息をつく。
『三年になったら・・・』
僕は何て返したらいいのか迷いながら、
「お互い、頑張ろうね」と無難に言っておいた。
またまた翌日。
平和な昼休み。いつもどおりの昼休み。
「またライター忘れたの?」
しまった、僕とした事が!
なぜ家でライターの事を思い出せないんだろう?
平和な昼休み。いつもどおりの昼休み。
「またライター忘れたの?」
しまった、僕とした事が!
なぜ家でライターの事を思い出せないんだろう?
いつもどおりの昼休み。
彼女と初めて会ってから何日経つんだろう?
今日は何月何日何曜日だろう?
気が付くと屋上で彼女と煙草を片手に笑っている。
そう、いつも気が付くとここで、こうして・・・。
彼女と初めて会ってから何日経つんだろう?
今日は何月何日何曜日だろう?
気が付くと屋上で彼女と煙草を片手に笑っている。
そう、いつも気が付くとここで、こうして・・・。
「アツシ君またライター忘れるだろうと思って、
今日はコレあげるよ。」
今日はコレあげるよ。」
『スナックあけみ』
「うちのお母さんが去年からお店始めて・・・。
家にたくさん余ってるんだ。なんならもっと欲しい?」
「わざわざありがとう、ごめんね!
お母さん『あけみ』って言うんだ。なんだかありがち・・・」
僕は笑いながらライターを受け取り、眺めて、ふと気が付いた。
家にたくさん余ってるんだ。なんならもっと欲しい?」
「わざわざありがとう、ごめんね!
お母さん『あけみ』って言うんだ。なんだかありがち・・・」
僕は笑いながらライターを受け取り、眺めて、ふと気が付いた。
『since 2005』
あれ?今年は・・・
去年から始めたって言ったけど・・・
僕は携帯電話の着信記録を見た。
2004年、2004年、2004年・・・!?
毎日かかってきていた母親からの着信は全て2004年だった。
僕の記憶は2004年で止まっている。
僕は携帯電話の着信記録を見た。
2004年、2004年、2004年・・・!?
毎日かかってきていた母親からの着信は全て2004年だった。
僕の記憶は2004年で止まっている。
あぁ、そういえば・・・
あの日。
抜き打ちで所持品検査があったんだ。
僕の制服のポケットからは煙草の箱とライターが見つかった。
先生に職員室に呼ばれ、問い詰められた。
先生はすがる様な目で僕に聞く。
「これは、キミが他の生徒が吸っているのを注意して没収したんだよな?そして、後から先生に届けるつもりだったんだろ?そうだよな?」
「いいえ・・・」
僕の制服のポケットからは煙草の箱とライターが見つかった。
先生に職員室に呼ばれ、問い詰められた。
先生はすがる様な目で僕に聞く。
「これは、キミが他の生徒が吸っているのを注意して没収したんだよな?そして、後から先生に届けるつもりだったんだろ?そうだよな?」
「いいえ・・・」
気が付いたら屋上への階段を駆け上がっていた。
封鎖される前の校舎内の階段だ。
封鎖される前の校舎内の階段だ。
そうか、僕だったんだ。
僕が・・・
僕が・・・
『 そ の 生 徒 』だったんだ。
あの時・・・
「はい」と答えていたら、
僕はまた安全なレールの上に戻れたのだろか?
大人たちが危険の芽を事前に取り除いてくれるレールの上に。
「はい」と答えていたら、
僕はまた安全なレールの上に戻れたのだろか?
大人たちが危険の芽を事前に取り除いてくれるレールの上に。
「アナタはもう何も考えなくていいのよ。
全てから解放された。生きることからも・・・。」
彼女が僕を見上げている。
そう、僕の身体は浮いていた。
少しづつ彼女が遠くなる。空へ昇っていく。
彼女は最初から全て知っていたのだろうか?
全てから解放された。生きることからも・・・。」
彼女が僕を見上げている。
そう、僕の身体は浮いていた。
少しづつ彼女が遠くなる。空へ昇っていく。
彼女は最初から全て知っていたのだろうか?
夢を見たのはどなたでしょう。