Mystery Circle 作品置き場

フトン

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nightstalker

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Last update 2008年03月14日

穴  著者:フトン


答えを欲しがり、せがんだのは、いつも自分の方だった・・・
わがままでお嬢様育ち・・・ついたあだ名が【姫】
それが私・・・
体つきも小さく、まあ、それなりの美貌とスタイルの持ち主で、いつも誰かに愛されていたのに・・・心の中はいつも空っぽ・・・それを埋めるために繰り返した意味の無い恋愛・・・
繰り返すたびにその穴は広がり大きくなり、いつの間にかそれが穴なのか、そうでないのかもわからなくなっていた・・・
「いつか痛い目にあうよ!!」
優しい友達の忠告さえも、大きくなりすぎた穴の中に吸い込まれ消えていく・・・
空が暗く淀んだこんな夜は、その穴が大きく膨れて私を飲み込んでいく・・・・
その不安から逃れるために、人通りの多い繁華街で意味も無く歩き続ける・・・
忙しい両親はめったに家に寄り付かない、それが不幸だとも感じないけど、何かが抜け落ちたようにくらい穴だけが大きくなっていく・・・
適当に歩くだけで誰かが声を掛けてくれる。
一人じゃない事を・・・感じられる・・・
それが私の毎日・・・・


朝日が昇る頃、ゆっくりとした足取りで家へと歩いていく。
私にはまぶしすぎる太陽がゆっくりと顔をのぞかせていくのを、訝しげに横目で負いながら歩いた。
今日に限って、タクシーを使うでも、男の人に送ってもらうでもなくなんで、歩いて帰ってきたのかは分からないけど、海風が香るこの道を、ただ歩き続けた。
まだ、朝と呼ぶには早すぎる時間帯、人の気配も何も無い、この世に私しかいないような錯覚にさえ陥る。
ふと私は歩むのをやめて、歩道から、海岸へと足を伸ばした。
波の音が繰り返し同じリズムで響いている。
砂浜に腰掛、そのまま海を眺めた。
ほんのりピンク色になった海が、「おいで、おいで。」しているようで・・・・・・
私はゆっくり立ち上がり海のほうへと近付いていった。
繰り返し流れる波の音が、私を誘う・・・・
(このまま海に入っていったら・・・・死ぬのかな??)
そんな疑問を抱きながら、足を海へと付ける・・・
もう秋の風が吹くこの時期に、海の水は冷たく、私は思わず顔を歪めた。
暗い穴の中から、声が聞こえる・・・
『死ぬ勇気なんて無いくせに』
そんなことは自分でも分かっている・・・
『あんたは、情けない奴なのよ』
穴の中で誰かがほくそえんでいる。
海に足を付けたまま、耳を塞ぐ!
でも、声は途切れることなくいつまでも話し続ける。
『一人じゃ何も出来ないお嬢様が、死ぬなんて出来るわけも無いわね。』
うるさい・・・・
『どこぞのお姫様か知らないけど、威張ってばかりでたいしたものよね。』
うるさい・・うるさい・・・
『ママやパパに会えなくていじけてるだけなのにね。』
うるさいい!!!!!
何度も心の中で叫んでいるのに声は消えるどころか、益々、激しくののしりだす。
『誰もあんたなんて、必要としてないのよ。あんたは、一人がお似合いよ』
声は、激しく私をののしり、高らかに笑い声を上げた。
崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ私に、波が無常に打ち寄せる。
(ねえ、パパ、ママ、何でお家に帰ってこないの?)
小さい頃そう尋ねた私に、両親は苦笑いを浮かべただけだった。
(ねえ、私と遊んで?)
そう言った私に友達は、首を振った。
(だって、可憐ちゃんと遊んでも詰まんないんだもん)
いつだって一人だった、誰かに甘える事もすがりつく事も無く、毎日穴ばかりが大きくなる・・・・
いっそ、消えてしまえたらいいのに・・・・・それすらも出来なくて・・・・
涙の味なのか、海の味なのか分からない塩っぽさが口の中に広がる。
このまま、溶けてしまえたらいいのに・・・・・
海なのか自分なのか分からないまま・・・・・
波打ち際に座り込み・・開けていこうとする夜の空を見つめる・・・・
「おい!!何やってんだ!!」
突然生身の人の声が耳に入ってきた!
現実とそうでない物との区別が付かなくなりかけていた私の耳は、それを聞き取る事が出来ない。
引きずられるように海から陸地に戻され、
暗い闇の穴にどっぷり浸かっている私は、その声の主に振り向く事も無く...海だけを見つめる。
「お前バカか?こんな時期に海に入ったら、くらげに刺されて、そりゃもう腫れまくるぞ!!しかもすっげー痛いし、化け物みたいに腫れ上がって・・・うを!!超こえー!!」
声の主は一人でべらべらとしゃべって、恐がってみせた。
あまりにもその反応が面白くて、私は暗い穴から顔を出した。
「まぁ、別にそれでもいいなら、ほっとくけどね。」
にかっと笑いながら、声の主は私の髪をぐしゃぐしゃにした。
穴の中からまた声が聞こえる・・・
『この人に慰めてもらえば?』
耳を塞ぎたくなるような人を嘲るあの声が・・・・
また、耳を塞ぎ頭を抱え込んだ私に驚いたのか、声の主がわたしの肩を叩いた。
「おい!大丈夫か?」
「穴が・・・・襲ってくるの...」
頭の痛い子だと思われたかも・・・
「何があったのかわかんねーけど、そのままじゃ風邪引くぞ!」
そういうと彼は大きな手で私の腕を掴み、無理やり引っ張っていった。
私は流されるまま、彼に引きずられていった。


海沿いの道を歩いていくと、小さなペンションが現れた。
自宅からそんなに遠くないのに、今まで一度も気付かなかった事に少し驚きながら、彼に引きずられペンションの中に入っていった。
中に入ると人の良さそうなおばさんが、彼を迎え入れた。
「賢ちゃん?彼女?あら、ずぶぬれじゃない!!」
「さっき海で拾ってきたの!彼女じゃないよ!おばさん。何か着替えある?」
「私のでいいなら・・・その前にお風呂に入ったほうが良さそうね。賢ちゃん案内してあげて。」
「ほいほい!」
賢ちゃんは明るく返事をすると、私を二階へと連れて行った。
二階の一室を私に勧めると、私を置いてどこかに出て行った。
かなりシンプルなその部屋で、私はボーと辺りを見渡した。
やがて賢ちゃんが部屋に戻ってくると、私にお風呂に入るように薦め、着替えを置いてまた部屋を出て行った。


お風呂から出ると、賢ちゃんが迎えに私を食堂に連れてきた。
そこにはさっきのおばさんがいて、ニコニコしながら私に暖かいココアを差し出してくれた。
温かいココアに暖かいお風呂・・・・それらは私の心の中の暗い穴を、少し忘れさせてくれた。
それにここにいる人たちの明るさが居心地よく・・・私を癒してくれた。
「ゆっくりして言ってね。」
おばさんはそう言い残すと忙しそうに、食堂を出て行った。
私の隣に何気なく座っている賢ちゃんは、何も話さずただ、何かを待っている様にじっとテーブルを見つめていた。
私はココアの入った、マグカップを静かにテーブルに置くとポツリポツリと、穴のことについて話し始めた。
賢ちゃんはただ黙って話を聴いてくれた。
心の穴が少しずつ塞がっていく。
私の話が終わると、賢ちゃんがやっと口を開いた。
「お前が、ちゃんと生きてるんだから、それでいいんじゃないか?それに俺と、お前はもう友達だろ?」
ドキンと胸がなった・・・・
友達・・・・・
「いつでも来いよ。寂しい時でも、楽しい時でも・・・」
涙が溢れ出す・・・
「お前の話・・・ちゃんと聞くから、ちゃんと話せ。」
その言葉は魔法のように私の穴を塞いでいった。
「何ならここでバイトでもしろ!!どうせ暇なんだろ?暇だからそんなこと考えんだよ!!そうしろ!!うん。」
そう言って、賢ちゃんはおばさんの所に走っていった。
何だか嬉しくて、暖かいココアのように気持ちが温かくなっていくのを感じた。


帰り道何度もペンションの方を振り返っては、賢ちゃんが手を振っているのを見ながら、私はスキップしたい気分だった。
新しい居場所は暖かく、いつでも私を受け入れてくれると・・・・
きっと、あの魔法の言葉が、そう信じさせてくれたのだから・・・・
頭の中で何度も、魔法の言葉がなり響いた。その度に暗い穴が塞がっていく・・・・

『ちゃんと聞くから、ちゃんと話せ。』

秋の風は優しさを増していた・・・・・・・

                                                end




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