Last update 2007年10月07日
タイトルなし 著者:松永 夏馬
ふたたび目を上げると、いつのまに気づいたのか女はふりかえり、好奇心いっぱいの目で彼を観察していた
目を離した隙に、あの女がまた彼に厭らしい視線を送っている。ああいう女の行動は、言われなくてももうわかっている。彼はぱっと見かわいい顔をしてるから、年増女がよく寄ってくるの。アタシは少しムッとして、ブランコから飛び降りた。
高台にある公園のベンチに横になっていた彼は、視線を感じたのか首だけ起こして不機嫌そうに「何見てんだよ」と唸るように言ったのだが、女には彼の言葉は聞き取れなかったらしい。でもアタシにはわかった。たとえ聞えなくてもアタシにはわかる。彼の目が女に興味を持っていない。
高台にある公園のベンチに横になっていた彼は、視線を感じたのか首だけ起こして不機嫌そうに「何見てんだよ」と唸るように言ったのだが、女には彼の言葉は聞き取れなかったらしい。でもアタシにはわかった。たとえ聞えなくてもアタシにはわかる。彼の目が女に興味を持っていない。
しかし、鈍感なその女はにっこりと笑顔を湛えて彼に歩みよる。
アタシは彼の好みを知っている。アタシみたいに若くて可愛い女の子が彼は好きなの。ああいう化粧が濃いケバい女は嫌いなんだ、彼の鼻が曲がっちゃうじゃない。なにより彼よりもかなり年上なのがダメよね。それにヒールのある靴を履いてる、あれじゃ彼と一緒に走れない。服だってあんなヒラヒラしたスカートじゃ、彼が気になって散歩が出来ない。
アタシは彼の好みを知っている。アタシみたいに若くて可愛い女の子が彼は好きなの。ああいう化粧が濃いケバい女は嫌いなんだ、彼の鼻が曲がっちゃうじゃない。なにより彼よりもかなり年上なのがダメよね。それにヒールのある靴を履いてる、あれじゃ彼と一緒に走れない。服だってあんなヒラヒラしたスカートじゃ、彼が気になって散歩が出来ない。
その女が彼の頬に手を伸ばすより先に、アタシは彼のリードを掴み逃げるように走りだした。
「いくよ、シロ!」
先行者が一瞬にして入れ替わる。アタシは彼に引っ張られるように走った。ほら、やっぱり彼にはアタシのほうがピッタリなんだ。うれしそうに尻尾を振りながら坂を駆け上がる彼をアタシは一生懸命追う。
そしてその階段を登り切ったら、彼とアタシの一番のオキニイリの場所。二人だけの秘密の場所。夕焼けに照らされた街並みを、学校を、家を一望できる、最高の場所。
アタシは赤く色付いた彼の背中をなでながら、とがった耳に口を寄せて囁いた。
アタシは赤く色付いた彼の背中をなでながら、とがった耳に口を寄せて囁いた。
「どうですいい景色ですか?」