Last update 2008年03月15日
マニア 著者:ブラックジョーカー
胸が焼け焦げそうなほど強く、自分は願ったのです。
いつまでも終わらないで欲しいと……。
ハイパーエクスプレススレイプニル――旧首都東京と新首都のラインを走る鋭角流線形の高速リニア、北欧神話に登場する八本足の馬――の窓から朧(おぼろ)げに見える高層ビル群は……まるで幻のように見える。
現実と虚構が逆転してしまったような現代をまるで象徴しているようだ。
急速な技術の発展により街はそこら中ディスプレイだらけ、ダイレクトフラッシュ――脳に直結して出力されたイメージ――でケバケバしく彩られている。
人々はダイレクトセンス――脳から直接出力された感覚、イメージ――を楽しんでいる。
生の感情、興奮、代償やリスク無き狂喜を楽しんでいる。
人目を憚(はばか)らず醜悪な笑みを浮かべる事には何も感じない。
既に不誠実な感情の抑止などに同一価値基準から生まれる誇り(アイデンティティー)を感じない。
サラリーマンは疲れた様子でベンチに座ってアーティフィカルセンス――作られた感覚――で喫煙欲を満たしているようだ。
私は洗練された文字列に息を呑む。
思考により精密に操作されている。
今では娯楽の中の小さな位置しか占めない。
文字媒体の業界は苦しいようで、絶版のものをやっと古書店で手に入れた。
いつまでも終わらないで欲しい……。
かみ締めるように読む最後……。
あとがき。