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Last update 2008年03月16日

ジェンガ  著者:松永夏馬



「これが最後の『さようなら』になりませんように……」
 厭らしい笑みでぐふふ、と声を漏らした。
「……んな」
 僕は引き攣った顔で目の前のオッサンを睨みつける。そしてそのままテーブルに置かれた二つの機械に視線を落とした。
 テーブルの隅に置かれた店員を呼ぶボタンにそっくりな円形の機械。上部に『押す』と書かれたその二つのスイッチ。
「ま、どっちでもいいから早く押して」
 テーブルの向こうでストローを咥え、なげやりな態度でオッサンが促す。くたびれた上着のポケットからタバコを取り出したものの、禁煙席だということに気付くとあからさままに舌打ちして再びポケットへと詰め込んだ。
「こんな大事なことなんで僕にやらせるんですか!」
「別になんとなく。つか、みんな知らないだろうけど毎日毎日誰かが持ち回りでやってんだよ。たまたま今日はオマエさんに担当してもらうことになっただけ。ちなみに昨日は某国の元大統領にやってもらったけどね」
 オッサンは鼻をほじりながら大あくびをした。
 深夜の、いやもうすぐ太陽が顔を出す時間に、ファミレスでまったりしてるんじゃなかった。
「みんな気付いてないんだよね、自分のいる世界がどれだけ不確定で不安定な存在なのかって。幸運と偶然が積み重なっているだけの微妙ーなバランスで成り立ってんだ。白熱したジェンガみたいにいつ崩れてもおかしくないんだなコレが」
 オッサンはそう言って、ズズズと音を鳴らせてアイスコーヒーを飲み干すと、あまり趣味のよろしくない腕時計をちらりと見て言った。
「さ、決めてくれ。そろそろ時間だ」
「そ、そんなこと言ったって」
「タイムオーバーしてもマズイからな」
「……くッ」

 どちらかが正解のスイッチ。
 もうひとつは不正解のスイッチ。

 毎日繰り返されてきた二択。幸運が重ねられて成り立つこの世界の命運が僕の選択に委ねられている。

 日の出がこんな機械で操作されているだなんて。

 今までの僕の人生、これまでに、こんなにだいじな決断を迫られることはなかった。




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