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Last update 2008年04月19日

コズミック☆ラブ  著者:キリカ



「んっ……ぁ」
 もうちょっと、もうちょっとでイケる!
 手でキモチイイところをつよく刺激して、そのままラストスパート!!
 悲しいかな、自慰だけは得意だぜ。彼女いないオレ、今はそんな悲しいこと忘れて気持ちイイ世界に旅立ちたいお年頃。
「はっ、あぁっ……」
 出た!!
 勢い良く無重力空間に放出された、白いもの、つまりオレの白撃砲!
 いつもなら情けなく落ちるはずの白撃砲は、勢いを保ったまままっすぐ一直線に壁へと向かってとぶ。さすが無重力、爽快感が違う!
 行け、突き進め!!
 どの便も満席に近い月行きシャトルだけど、会社が経費で個室を取ってくれたおかげでこの壮大な実験を行うことが出来た。会社の金で宇宙旅行(出張)できるなんて最高!! 高校中退だけど就職してよかった。そのおかげでオレはあの時馬鹿話をしたダチの誰よりも早く、この実験をやることが出来たんだから。

 ――俺的宇宙実験テーマ――
 白撃砲の推進力は無重力空間においてどの程度維持され、それはターゲットに対してどのような影響を与えるのか?

 この壮大な実験の発案者、オレ。実験者、オレ。実証者、オレ。代打、オレ。
 こいつはたいして勉強もしないでダチとつるんでたときに、仲間内で盛り上がった話だ。誰かが宇宙に行くことになったら、絶対に実験して報告するのがオレ達の共通の義務。
 ターゲットは残念ながらこの6時間のフライトでは探せないが、できれば帰りのシャトルでは同伴して、この壮大な実験を完成させたいと思ってる。
 って、フッと我に帰るオレ。
 さすがにパンツずり下げた状態はカッコ悪い。ティッシュティッシュ。
 と思ってふと視線を上げれば、目の前には無重力化で白球と化した俺の白撃砲!!
 しかも一直線に、勢いを保ったまま俺に向かってくる!
 なんで? どうして!?
 それでもオレは白撃砲の直撃を免れるべく、上体をそらす。こう見えてもオレ、リンボーダンスが得意!
 が、シャトルの個室の狭さを計算に入れるのを忘れてた。ゴンッ! という音に続いて、鈍い痛み。
「いってぇ!!」
 頭を抱えたそのときだった。
 ――ペチャ
 鳥の糞が直撃したときとまったく同じ感触が、脳天に……。
 俺の放った白撃砲は目の前の壁に反射してオレを襲い、避けた俺の後ろの壁に反射して俺の頭にカムバックしたのだった。
「宗谷君、こっちこっち! よく来たな! どうだった初フライトは? って、どうした? 宇宙酔いか? なんか特殊な匂いがするけど……」
 出迎えに来てくれた会社の先輩社員の高城さんに、まさか己の白撃砲をくらったなんて……言えなかった。
「だ、大丈夫ッス! なんでもないッス!!」
 強がりだけど、涙がちょちょ切れそうだぜ。

 宇宙開発は結構旬な産業で、建築会社に入った俺もようやく二年目にして初の宇宙研修。
 この日を、オレはどれだけ待っていたことか!
「スゴイ! 宇宙でのS○X大辞典」
「無重力みんなの信じられナイH体験談」
「地球の100倍気持ちイイ! 宇宙体位特集!」
 事前の資料収集はばっちりだ。あとは実際に月でいい女の子をみつけて、試すのみ!!
 研修はたった一ヶ月。まさか付き合ってその日にヤラせてくれる可能性は低いから、女の子は早めに見つけたい。そんでもって、俺のオトナな会話でおとしてベッドイン。俺のテクニックでイかせまくって、俺無しじゃ生きていけない体にして……。
 って、顔上げたら高城さんと目が合って、笑われた。なんで?
「どんどん食べていいぞ。宇宙は色々と慣れなくて大変だろうけど、やりがいのある職場だから頑張れよ」
 とりあえず腹が減ってるだろうって、誘ってくれたレストラン。俺は迷わず月面名物まん丸オムライスを頼んだ。
 しばらくして運ばれてきたのは、レモンみたいな形をしたオムライスだった。なんか、低重力ってすげぇ!
 俺が食ってる横で、先輩社員の高城さんは優雅にコーヒーを飲んでる。その姿がカッコイイ。
 高城さんはオレより七つも上で、会社でもすっげぇ期待されてる社員。施設のネットワーク管理のエキスパートだって話で、月で建設中の施設のネットワーク設備を開設するのが仕事。だから建築業でも、ずっとデスクワーク。パソコンの扱いなんて本当に惚れ惚れするほど早いし、正確。しかも男のオレでも惚れそうなほど顔がいいし、社交的。眼鏡で知的で、それでいて優しい。
 これで放っておく女はいない。
 とすれば、実験のターゲット、……もとい女の子は高城さんに紹介してもらうのが早そうだ。
「高城さん、オレお願いがあるんですけど……」
「どうした?」
「女の子、紹介してくれませんか?」
 …………痛い沈黙。あ、高城さんの目が点。
 単刀直入すぎたか?
 けど、突然高城さんは背中を丸めて笑い出した。
「宗谷君、それちょっと直接的すぎないかい?」
「え? やっぱりそうっスか? でもオレ一ヶ月しかないし、時間なくて焦ってて、その……やっぱり宇宙でも女の子と付き合いたいって言うか、せっかく一ヶ月もいるのに彼女も居ないと寂しいし、それに……」
「わかった、わかった。紹介するから」
「宜しくお願いしますっ!」
「それで宗谷君、今までの女性経験って、多い方?」
 逆に単刀直入に聞かれて、俺は自分の顔が赤く……ちょっ、オレ、初心過ぎだろ!
「そ、そりゃあもちろんっすよ! 地球じゃあ、ホント、女の子いっぱいいて。でもちょっとマンネリ化したんで、月の女の子もいいかなって。そんなとこですから」
 まさか、17歳でチェリー君なんて、言いたくない。っていうか、言えない。背伸びしたいお年頃のオレ。
 高城さんは惚れ惚れするような笑顔で、オレに頷いた。
「じゃあ心配なさそうだね。今度の休みに一緒に出かけよう」
 こうしてオレと高城さんのナンパ作戦は始まった。

「とりあえず、まずは月基地で女の子が一番多い繁華街に行こう」
 初めての休みの日、高城さんはオレを繁華街に連れ出してくれた。
 月に来て知ったけど、宇宙は女の子が少ない。科学者や開発部門には女の人もいるけど、今月は建設ラッシュで、土木作業員ばかりだからかもしれない。って、オレも土木作業員だし。
「繁華街って、なんかマジで地上の繁華街っぽいですね!」
 辺りを見回せば、なんだか地球にある建物のようなものが建ってて、それぞれにレストランだの服屋だの看板がかかってる。
「なんか、ほんとに地球みたい。屋根とか窓とか、月じゃ無駄じゃないっすか?」
「長くここに居るとさ、少しでも地球っぽいものにあこがれるんだよ。だからせめて商店街くらいは、地球を感じられるものがいいって事じゃないかな」
 そう話す高城さんの目が寂しげなのは、オレの気のせい……じゃないかもしれない。もう二年、休暇で帰省する以外はずっと月だって言ってた。帰りたいのかな。
「高城さん、ほんとは地球に……」
「宗谷君、あの娘なんてどう? よかったら声かけてみようか?」
 そう言って高城さんが目で合図する先には、20代前半くらいのきれいな女の人がいる。
「是非お願いします!」
 高城さんは任せとけ! と言わんばかりに親指を立ててオレに頷き、すぐに女の人に声をかけた。最初は驚いて警戒していた女の人も、二、三言話しているうちにすぐ打ち解けた笑顔を見せる。すげぇ、高城マジック!
 高城さんはすぐにその彼女を連れて俺のところに来た。
 簡単に紹介されて、三人でファミレスへ。ケーキと紅茶を注文して、まずは軽い話題から。働いているとこや、月歴を聞くあたり。
 清楚な感じで、明るくて、キレイ。理想のお姉さんって感じ?
 趣味は月面散策。両親は地球にいて、彼女は現在彼氏なし。歳はオレより二つ上の19歳。月面開発公社で働いていて、来月帰還予定。
 その辺のことを聞き出したら、突然高城さんが伝票を掴んで立ち上がった。
「それじゃ、ごめん。俺はこれから仕事なんだ」
 って、それじゃバレバレっすよ高城さん! 一体どんな三文芝居ッスか!!
 取り残されるオレと彼女。
 でも、オレにはわかってる。泣きたいくらいに、わかってるさ。彼女は高城さん目当てで、オレのことなんて全然見てないってことは。
 実際ほら、高城さん帰っちゃったらもういきなり携帯開いてメール打ってるよ。スゲー早さ。って、え? 煙草? ちょっ、煙こっちに吹きかけんな、馬鹿!
「ねぇ、あの高城って人帰ってこないの?」
「え、あ、ハイ。たぶん」
 っつーか、本人いなくなったとたん呼び捨て?
「はぁ? マジ無いって。何それ。ちょっといい男だからついてきたのに、ありえなくない? もうあたし帰るから」
 さっきまでの清楚で爽やかな雰囲気、どこ?
 めっちゃ怖いよ、高城さん!
 彼女、乱暴にバッグ引っつかんでレストランを出て行った。俺もなんか居心地悪くて、すぐに出る。
 だけど右を見ても左を見ても、高城さんの姿なんてないし。仕方ないから繁華街を一人で歩き始めた。
 見回しても、女の人が多いとはいえない。でもこれで、多いほうなんだろうな。
 なんて考えてたら、前から歩いてくるのは制服の女子数名。ってあれ、もしかして月面宇宙学校生? すっげぇエリートじゃん!
 近寄ったら、怪訝な顔で全面的に拒否された。でもオレ、前向きだけが取得。努力もしないで諦めるなんて出来ない!
「あ、あの、君たち月面宇宙学校の生徒でしょ? オレ、一週間前から月で働いてて。まだこの辺のことよくわからないから、良かったら案内して欲しいなーなんて……」
「警察はその角です。わからないことがあったらそちらへ。これ以上付きまとうなら私が警察へ行きます」
「……失礼しました」
 反射的に謝る俺を、蔑んだ目でオレを見て通り過ぎてく女子集団。怖ェよ、マジで。
 っていうか、話しかけただけなのに付きまとったってことになってるの? 何それ、ちょっと過剰反応過ぎじゃね?
 俺はまたアテもなくぶらぶら歩く。
 ふと、路地裏から視線を感じて振り向けば、そこには目を閉じた女性が小さなテーブルと椅子を置いて座っていた。そのテーブルには小さい紙が貼ってあって、「占います」と書かれてる。目ぇ瞑ってるけど……視線感じたぞ、確かに。
「あの、占いっていくらですか?」
 俺は、その目を閉じたお姉さんが美人だったことと、微笑んでくれたことでつい話しかけてしまった。
「お金は、今は取ってないですよ。占いの修行中の身ですから。お客さんも、だからどんな結果が出てもあまり信じ込まないでくださいね。そういう可能性もある、くらいに考えてください」
 オレは、彼女と向かい合う形でイスに腰をかけた。
「さて、何を占おうかしら?」
「れ、恋愛運……とか? あ、いや、なし! 総合運でいい。総合運!!」
「クスッ、恋愛運ね」
 決して馬鹿にするのではなく、そう言って優しく笑ってくれるその顔が、あまりに柔らかくて、オレはすごく嬉しくなった。けどなんでだろう? そんなときにオレのアレは意味もなくムクムクと起き出して……。
 や、ヤバイ。テントが建っちまった!!
 なんで今この時!? 時々俺の意思に反してムックリ起き上がるやつだけど、ちょっと少しはTPOとかさ、考えようぜ!!
 不幸中の幸いと言えば、奴は今はテーブルの下。彼女には見えない。って言うか、彼女は目を閉じてるからたぶん見えない。むしろ見えてくれるな、頼むから!
「どうしたの? なんだか焦ってるみたい……」
「あ、いや、なんでもないっす! 占いって初めてだから、ドキドキしちゃって……」
「あら、かわいい」
「お姉さんこそ」
 その人は、とたんに笑い出した。俺は恥ずかしくて、どうしたらいいのかわからない。
「ご、ごめんなさいね。あなたがいきなりそんなこと言うものだから。あら、運勢……すごくいいわよ」
 今、強引に話題変えるために俺の運勢持ち出さなかった?
 それに、なんだかカードをシャッフルして並べただけに見えたんだけど、気のせいか?
 それを1枚1枚ゆっくりめくっていって、っていうか、お姉さん目が見えてないんじゃないの? 
「あの、目……瞑っててもカードの柄ってわかるんですか?」
「わかるわ。カードが私に囁きかけてくれるの」
 え? 囁き……? デンパ?
「本当にいい運勢だわ。あなた、この月基地で必ずいい人にめぐり合える。人生の伴侶になるくらいの相手よ。すごく幸せ、でもちょっと不安もあったり、周囲の反対や、辛いことも。でもきっと、二人の愛の力で乗り越えられるんじゃないかしら」
 何そのドラマでもありえないくらいのハッピーエンドの予感。むしろちょっと信じがたいよ、オレは。
「マジですか?」
「だから頑張って」
「がんばります! できれば、お姉さんと!!」
 俺はガシッとお姉さんの手を掴んだ。が、ポンと俺の肩に手をおく人がある。
「あら、迎えに来てくれたの?」
 とたんに嬉しそうな声のお姉さん。その視線は軽く俺をスルーしてその後ろ。
 お姉さんの知り合い。ってことは、マズくね、オレ?
「悪いが坊主、その人に手ェ出すな」
 恐る恐る俺は振り向いた。ドスの聞いた声で言うのは、その筋の人……じゃない。宇宙船乗りだ。いや、やっぱその筋の人かも。目が据わってる。怖っ!!
「艦長、こんなところで遊んでないでいきますよ」
 って、えぇ!? 艦長!???
「わかったわよ、もう。せっかくの非番だってのに……」
「非番じゃありません。サボりでしょう。宇宙船任務放り出して趣味の占い屋なんかやらないでください。軍の人間に見つかったら何て言い訳するんですか!? だいたい目の見えないフリなんかして。何の真似です?」
「そりゃ、見えないほうが当たるように思われるじゃない。神秘ってやつ? ま、仕方ないわ。帰るわよ。ごめんなさいね、あたな。それじゃ、頑張って」
 って、お姉さんは目をあけてオレにそういった。ひらひら手を振りながら去っていく姿はかわいらしいけど、お付の宇宙船乗りが睨んでる。めっちゃ睨んでるよ! あ、一瞬視線が……って、オレの股間!! テント張りっぱなしだし、オレ!!
 うわ、なんだそのすっげぇ蔑みの目。
 あれ? あの艦長って呼ばれたお姉さんも、見ててるし!! なんか、笑ってるし!!
 うわーん、高城さぁーん!!
 いたたまれなくなって走り出すオレを、通行人が変な目で見てる。そりゃ股間にテント張ってるからって、そんな目で見なくたっていいじゃないかぁ。生理現象だもん。仕方ないんだぞ!! わ、若い証拠なんだからな!!
 とはいえ、すごく腰を引いて内股ちっくに走らなきゃいけないオレ、カッコ悪いよ。もうありえないカッコの悪さだよ、マジで!!
 逃げ場が欲しいんだよ、逃げ場が。っていうか抜き場が!
 そう思って入り込んだ路地の突き当たり。たどり着いたのはピンクの看板。これはもう、運命だ。
 俺はその店に駆け込んだ。
「いらっしゃいませ」
「は、初めてなんですけど、その、もう……」
 ちらり、と受付のタキシード男はオレの股間を見て、すぐに営業スマイルを顔に貼り付ける。でも一瞬オレの股間見たときのあの蔑み、もうヤダよ、オレ。墓穴掘って、入って、自分から埋葬されたいよ。
「当店は指名によってお値段が変わりますが、いかがなされますか?」
「あの、あんまりお金なくて、その……」
「初めてのお客様限定で、指名無しの割引サービスも行っておりますが」
「じゃあ、あの、それで!」
「それでは409号室にお進みくださいませ」
 オレはその部屋へ、半ば強制的に案内された。
 意を決してドアを開き、一歩踏み込めば底はけばけばしいピンクの世界。狭い部屋の真ん中にはベッドがあって、その上には大きなシロブタのぬいぐるみ……が煙草を吸って……あれ?
 のっそりとそれは動いて、こっちを向く。ぷはーっと盛大にはく煙草の煙が、部屋に充満して、もはや別世界的なスモークを作り上げる。
「あらぁ、童貞じゃない。しかもずいぶんといきり立っちゃって。ムフッ、これが役得って奴よねぇ。筆おろしなんて久しぶり。じゃあ美味しく頂いちゃおうかしら」
 声がオッサンくさいその白ブタ、いや、白くて、でかい、かつて女だった生きものは、のっしのっしとオレに向かって歩いてくる。
 オレはこの瞬間、悟った。これは人生で最大のピンチだ。このピンチを乗り切れるかどうかで、俺の真価が決まる。っていうか、俺の全人生が決まる。
 間違っても、これが俺の運命の相手じゃないことは、占い師でなくたってわかる。って言うか、そう願ってる。
 俺は、ちびりそうになるのをこらえ、逸物が急速に萎えたことにも気づかず、勇気ある撤退を両足に命じた。その瞬間にどちらの足とも我先にと走り出し、気づけば転げ落ちるように非常階段を転げ落ち(本当に六分の一重力で助かった)、それでも追って来る化け物から必死に逃げる。
 階段を転げ落ちる俺に、事情を察した受付のタキシードが通せんぼをするのにもかかわらず、俺はとにかく自分の男としての尊厳を守るためだけに、逃げた。タキシードに体当たりしてまでも、オレは懸命に出口を目指す。
 伸ばされる手を撥ね退け、走り、怒鳴り声から逃げるように、足を前に。
 やっとのことで、出口を通過する。
 人工の、だけどピンクじゃない白色のまぶしい光がオレに射す。
 ああ、オレは今、本当に自由の意味を味わったのかも知れない。
 女という恐怖から、俺は逃げ出した。もう夢は見ない。理想も抱かない。現実がかくも厳しい物だって、俺は今知ることが出来た。
 いいじゃないか、童貞で!
 男たる者、童貞くらい守れなくてどうするって言うんだ!!
 俺はもう女という呪縛から、女という怪物から、女という幻想から、自由だーーー!!!
 が、そう叫んだところでここは重力6分の一の月面世界。一度ついたスピードがそう簡単に弱まるわけもなく、俺は路地を抜けて大通りまでまっすぐに跳び、そして人とぶつかった。
「すみませっ」
 その人はしっかりと俺を抱きとめて、そして優しい笑顔を見せた。
 それはいなくなったはずの、高城さん。
「高城さん、どうして……」
 おかしいな。目から何か熱い液体が……。
「あの娘があまりお勧めできないって思ったから、早く帰るように仕向けたんだけど。まさか君まで見失うとは思ってなくて。ごめんね、怖い思いをさせたね」
 高城さんはしっかりとオレを抱きしめて安心させると、ゆっくりと歩き出した。
「どこに行くんですか?」
「君との約束を果たしに行くんだよ」
 着いた先は、ホテル。それもラブホなんかじゃなくて、ちゃんとした一流のとこ。
 促されるまま部屋に入ったオレに、高城さんはシャワーを浴びるように言った。
「君はゆっくりシャワーでも浴びて落ち着くといいよ。その間に相手を連れてきてあげるから。焦らなくていいからね」
「はい、ありがとうございます」
 熱いシャワーを浴びて、オレは化け物に追われた一件ですっかり萎えたオレ自身を真剣に洗う。高城さんが、まさか化け物を連れてくることはない。だとしたら、今度こそオレは目的が達成できるってことで……。
 やっぱり全言撤回。オレ、ヤリたい。
「頑張れ、オレ!」
 小さく呟いて両手で頬を軽く叩くと、オレは意を決してシャワー室をでた。着替えを持ってなかったから、タオルを腰に巻いただけのラフな姿。
 だけれど、そこに待っているはずの女は、いなかった。高城さんが煙草を吸っているだけだ。スーツをワイルドに着崩して、ネクタイを緩めてある。それだけで、なんだかすごく様になっている。
 オレは、見とれた。
 言いようも無い感情が、腹の底から湧き上がってくる。そいつは直にオレの体を攪拌するように、居心地悪く、それでいて甘美な不安をつきつける。
 この謎めいた、意味なんかないくせに胸を締め付けられるような奇妙な感情に、なんでこんなにも心をかき乱されるんだろう。
「宗谷君」
 高城さんがオレに気づいて、煙草を消して立ち上がる。眼鏡の奥の真剣なまなざしに射抜かれて、オレは動くことも出来ずに立ち尽くしたまま。彼がオレのすぐ目の前に立って、オレの顎を右手で掬うように指の先で上げるのを、拒否することなんて出来ない。
「最初から、こうしたいと思ってたんだ」
 そう言うなり、高城さんの唇がオレの口を塞いだ。侵入する舌に、オレは抵抗するすべを持たない。片手を俺の後頭部に、そしてもう片手は背中から腰へと緩やかに伸びていく。
 腰に巻いたタオルが、ストンと落ちる。
 細く長い指が、俺の体をまさぐる。一度離れた唇は、一息後にはまた深く長くふさがれる。
 オレは、もう……。

 ぼんやりする頭のままで、ベッドサイドに腰掛けて煙草を吸う高城さんの姿に見とれてる。すごく穏やかな気持ちの中に、じわりと幸せと嬉しさが滲んでくる。自然と顔が微笑んでしまうオレがいた。
 高城さんが、好きだ。初めてで痛がる俺に優しくしてくれた。一緒にイってくれた。高城さんのイク時の顔がすっげぇ色っぽくて、痛くてももう一度やりたいって思ってるオレがいる。高城さんがイってくれるなら、オレどんなに痛くたって我慢できる。
 本当は全くの初体験だったのに、すっげぇ気持ちよくて。でもきっと高城さんが相手なら、地球だって宇宙空間だって同じように気持ちよかったに違いない。
 愛に国境なんて無いし、重力だって、愛を縛ることなんか出来ない。
 オレは、いや、オレ達は今無性に幸せで、それだけで十分で。
「後悔してる?」
 高城さんの優しい問いに、俺は首を横に振る。後悔なんて、するはずない。
「本当ははじめて会ったときから、君を欲しいと思ってたんだ」
「オレはもう、高城さんのものだよ」
 高城さんの大きくて細い手が、くしゃくしゃと俺の頭を撫でる。そんなひと時が、幸せだった。

「オレ、すぐにこっちに戻ってきますから」
 研修を終えて地球へ戻る日、高城さんはわざわざステーションまで見送りにきてくれた。
「君とこのステーションで会ったとき、君から地球の香りがしたね。忘れられなかったよ、あの出会いは。オレはここで待ってるから、すぐに上がって来い」
 高城さんはそう言って、自然に俺にキスをした。あくまで二人の間では、挨拶のキス。抱きつきたいのをこらえて、オレは笑顔を見せる。
 そうして俺たちは、別れた。
 シャトルの個室で、オレは涙をこらえるのが精一杯だった。また会えるとは言っても、早くて半年後。それも、月での正メンバーになれるとはまだ決まってない。
 だからオレは、頑張らなくちゃいけないんだ。
 だけど、高城さんと半年も会えなかったらオレ、すっかり高城さん仕様になったこの体を、どうしたらいいんだろう?
 さっきのキスだけで感じそうになった俺自身は、個室で高城さんを思い出しただけで熱くなる。
 そうして壮大な実験の第二幕は、開かれたのだ。

 ――俺的宇宙実験テーマ――
 白撃砲の推進力は無重力空間においてどの程度維持され、それはターゲットに対してどのような影響を与えるのか?

 次こそは絶対に、高城さんとシャトルで実験してみよう!!
 今回はその予行演習だ。前回の失敗を教訓に、オレは個室の鍵を確認して行動を開始。
「んっ……ぁ」
 もうちょっと、もうちょっとでイケる!
 手でキモチイイところをつよく刺激して、そのままラストスパート!!
「はっ、あぁっ……」
 出た!!
 勢い良く無重力空間に放出された、オレの白撃砲!
 いつもなら自分の下腹部に情けなく落ちるはずの白撃砲は、勢いを保ったまままっすぐ一直線に壁へと向かってとぶ。
 行け、突き進め!!
 もちろん奴は前の壁に反射してオレに向かってくる。だが、二回目にしてその弾道はすでに見切っている!!
 オレは白撃砲の直撃を免れるべく、上体をそらす。こう見えてもオレ、リンボーダンスが得意!
 見事俺は素晴らしい上体のひねりで白撃砲をかわす。
 そのとき、ふと高城さんの言葉が脳裏をよぎった。
「君とこのステーションで会ったとき、君から地球の香りがした」
 って、ちょっと待って、もしかしてそれってオレの白撃砲の匂いじゃ……。
 高城さん、それ、絶対違うから。地球の匂いじゃないから、それ!!!
 人間のオスの匂いだから!!!

 ――ペチャ

 鳥の糞を脳天に受けたときの感触をリアルに感じて、オレは絶叫した。
 数時間後、迎えに来た地球本社のオッサン課長は、オレに会うなり眉間にしわを寄せた。
「宗谷、おめぇなんかイカ臭くねぇか?」




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