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Last update 2007年10月07日

タイトルなし 著者:塵子


 私は自ら嘲るように笑った。
「キミは知っていたんだろう……?」
 ゆっくりと右腕を上げそれを掴むと、私は彼女に向かって勢い良く放り投げた。
「私がヅラだということを!」
 今や私の頭頂部は、フランシスコ.ザビエルのような輝きと風情を醸し出していた。
 彼女は暫くうつむくと、足元に落ちているヅラを見つめながらポツリとつぶやいた。
「……知っていたわ……」
 やはりそうだったのか。しかし、私はこのザビエルを隠すため、彼女の前では常に慎重に行動していたのだ。どうして彼女に気づかれたのか、見当もつかなかった。
 すると、私の表情からそれを察したのか、下を向いたまま彼女は答えた。
「だってあなた……風の強い日にはいつも頭を押さえていたんだもの! この間ジェットコースターに乗ったときなんて、終始両手で頭を押さえっ放しだったわ!」
「……!」
 なんてことだ。ばれないようにと工夫をこらしたつもりだったが、すべて裏目に出ていたとは。私は自分の愚かさを呪った。
「……だから、私と別れたいと?」
 こんなザビエル相手では、彼女がそう思うのも無理はない。私は絶望感でいっぱいになった。
「違うの! そうじゃない……あたし……本当は……」
 その瞬間、彼女の美しい黒髪がサラリと床に落ちた。

 何が起こったのかわからなかった。彼女に目をやると、そこには私がいつも鏡で見慣れた頭が――ザビエルヘアーがあった。まさか……まさか彼女も?!
 彼女は顔を上げると、目に涙をためながら意を決したように私に叫んだ。
「あたし、本当は河童なのよ!」
「……!!」
 なんてことだろう! そう言われてみれば、彼女の肌は緑色をしていた。それに先月の誕生日、彼女が欲しがったのはキュウリ3箱だった。また、彼女の背中には甲羅のようなものが付いていたが、それが今の流行なのだろうと思い大して気にもしていなかったのだが……まさか河童だったなんて!
「苦労したわ……頭のお皿が乾かないように、暑い日はウィッグの下に濡れタオルやアイスノンを入れたこともあった……」
 なるほど、彼女がたまにアフロヘアーで現れるのは、オシャレではなく頭の不自然さを隠すためだったのか。私はようやく真実を悟った。
「嫌いになったでしょう? こんな…河童女なんて……」
 彼女は下を向いたままなので、表情は見えない。ただ、床に点々とついた水玉模様が、彼女の心を映し出していた。そんな彼女を見て、私は愛しくてたまらなくなった。
「嫌いになるわけないじゃないか……例え河童でも、私はキミを愛しているんだ!」
 彼女はビクリと体を震わせ、すがるような眼で私を見た。
「キュウリならいくらでも買ってやる! なんなら家でキュウリを育ててもいい!! だから……行かないでくれ、貞子!!」
 彼女は少し青ざめて、まだ考え込んでいた。





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