*NULL-0

Men of Destiny 46

最終更新:

匿名ユーザー

- view
管理者のみ編集可

悲しみを燃やし尽くす刻




「シンとステラはっ!?」
 ルナマリアとレイからは補給の為に帰還すると通信があった。しかし、シンとステラから連絡がない、マーカーも拾えずミネルバからは完全にロスト。
「宙域が荒れてとても無理ですっ」
「いいから、やってっ! シン達を探して早く。発射地点、割り出せたのっ?」
 ミネルバのブリッジで艦長のタリアが叫んでいた。最前列の爆撃に参加せず、僅かに掠めただけで難を逃れたのが、とにかく突然も突然だった。
「友軍の被害状況分かりませんっ!」
 生き残った艦同士で必死の通信が飛び交うが、戦場は殆ど恐慌状態に陥っている。ザフト軍の指揮をとっていた旗艦は後方だから無事だったが、戦列を構成していた宇宙戦艦が半分以上はやられてしまった。
「地球軍も殆ど残っていない・・・」
 アーサーが及び腰でコンソールにしがみ付いて、誘爆が続く月面基地を見ている。皆が忙しく情報収集にてんやわんやな中、一人腰を抜かしている。
「艦長! 旗艦より暗号通信・・・これは・・・作戦命令書ですっ!?」
 残存のザフト艦は直ちに地球軍の月面基地、アルザッヘル攻略を停止し、月裏側の地球軍要塞を全力で攻略せよ。2発目の攻撃目標はザフト防衛艦隊か自治評議会参加のコロニーと推測される。発射される前に必ずこれを撃破せよ。
「時間がないわ。メイリン、シン達を呼び出し続けて」
 タリアが戦闘ブリッジから前面のスターボードを見て、周辺宙域を確認する。
「無事が確認できるのは、わずか12艦。ジュール隊長の艦が残っているのが幸いね」


 光度センサーは入力過多でいってしまっていた。ジャイロ、加速度計も機体の温度センサーも正しいかどうか怪しいものだ。それでも、デスティニーはまだシンの思う通りに動いてくれた。エンジンが青いフレアを吐いて、虚空に滑り出す。少し離れた所に、ステラが乗っている機体がいた。
 回線を開けば、ノイズに乗って声が聞こえた。
『・・・シン・・・』
「無事かっ!? どっか怪我はっ」
『大・・・丈夫。シン、心配する必要ない』
 いつもと変わらない様子に、シンは改めて周囲の確認をしようとした時、ミネルバからの通信が届いた。それはかなり雑音交じりで、デコードも満足にできない中途半端に千切れたものだったが、そこだけは解読できた。
 月の裏側の要塞を叩く。
 月面の基地からではない攻撃に、シンはその意味を悟った。先程の長距離レーザービーム攻撃はそこから発せられたのだと。
 HUD上の味方の艦影が動き始めていた。
「ステラはミネルバに戻れっ!」
『いやっ。ステラ、シンと一緒にいるっ』
 一緒って、俺は今から地球軍の要塞をぶっ叩き行くんだぞ。
「何言ってんだよっ! 戦闘なんだぞっ」
『ステラちゃんと戦える。シン守るっ』
 2機は壊滅寸前のアルザッヘル基地を通り過ぎて、残った機体にと共に移動を開始する。シンはステラと口論しながら、ミネルバの位置を探した。


 降って沸いたような光が月の裏側で起る。通常は見えないこの宙域にある巨大要塞にザフトの艦隊が迫る。迎え撃つ地球軍の戦列の後方で、灰色の新型を先導するように飛ぶ隊長機は緑色だった。
 HUD内のカウントダウンまで持たせればいい。命令はただそれだけだ。生き残れとも、新人の面倒を見ろとも言われなかった。そんな上官が今のスティングにはいなかったのだ。
「くそったれが・・・」
『俺のせいじゃないぜ、俺、あいつに言われた通りちゃんと逃げたもん』
 要塞砲通過後の宙域にインフィニティの姿を見つけることはできなかった。母艦に連絡しても、消息不明と帰ってきて、変わりに指揮を取れと命令が飛んできた。
「分かっているさ。俺たちが消耗品だってことはな」
 戦況はこれでイーブン。ヘブンズベースとアルザッヘルを失ったが、コーディネーター陣営も虎の子の月軌道艦隊の半数を失った。むしろ無尽蔵の地球を抱える地球軍のほうが有利だった。ここを抑えきれば、一気にコロニーへ攻めあがることができる。
 射程距離まであと200。
 カウントダウン続行中。
「各隊の前に出ろ。デストロイ防御態勢。ステラとアウルは俺に続けっ!」
 新米たちが駆る機体はカオスより一回り大きい拠点攻撃用機体デストロイ。火力だけでなく、バリアを展開することができる攻防に優れたものだ。お互いがお互いを射程に納めて、火蓋が斬って落とされた。
 地球軍の機体の前で蜃気楼にように歪む爆発が起った。


 ステラは帰らないし、どうしたらいいんだよ。
 シンは言うことを聞かないステラを説得できずについにダイダロス要塞の前まで来てしまっていた。長距離砲が届けばすぐにも戦闘が始まるだろう。臨界ギリギリで向かいたいのをインパルスにあわせて飛ばざるを得なく、はっきり言って出遅れていた。
 時間がないって言うのに。
 もし、コロニーが攻撃されたら?
 各隊で戦闘が開始されたと、通信が入ってきた。
「ステラ! 俺の傍、離れるなよ。危ないと思ったらすぐにミネルバに戻れよな。もう、どうとでもなれっ!!」
 シンはトリガーを引いた。
 新型エンジンのエネルギーで放つ、レーザービーム砲。その後、ステラも抱えていたミサイルを撃つ。地球軍の防衛ライン上でいくつも爆発が起こるが、波紋を広げたように歪んで見えた。
「バリアー!?」
 眼前の敵機は無傷だった。シンのビームもステラのミサイルも透明な何か阻まれて届かない。
「ステラっ、離れるなよっ!」
 既にロングレンジの攻撃を諦めた味方がドックファイトを挑んで距離を詰めていた。隙間を縫うように敵の攻撃が飛んでくる。ちらちらとステラが付いてきているか確認しながらシンは突進した。
 あっという間にヘブンズベース、アルザッヘル攻防戦と同じ混戦状態になる。
 早く後の要塞本体に辿り着かなければ、あれを破壊しなければと、気ばかり焦る。ステラのこともあっていつもの倍疲労を溜めていく。
 目の前に現れる緑の機体は、散々戦場で目にした機体、カオス。
 こいつの近くにはインフィニティがいる。
 確認すればカオスが2機の新型を連れていて、シンは奥歯を噛み締める。さっきまでその位置には深紅の機体がいた。
 ともすると、感じられない気配を戦場で探ってしまいそうで気を引き締めようと操縦桿を握り締める直前、灰色の機体の近くでまた爆発。間髪おかずに機銃ですぐ下を通り過ぎる機体があった。
「ステラっ!?」
『こいつっ、落とす!』
「馬鹿やめろ。近づきすぎだっ!」
 しかし、ステラは果敢にも攻撃を繰り返す。それらはバリアに阻まれて届くことはなかったのだが、相手の攻撃にも当たらずに、まるでずっとそこにいたかのような戦いっぷり。
 シンの制止も聞かずに闇雲に突進する機体。
『ステラだって、できる・・・』
 どうしちまったんだ?
 執拗に一機を狙うインパルスを放っておけるはずがない。嫌が応もなく、灰色の新型一機に攻撃が集中することになった。敵もそれを察したのか、残った一機とカオスが援護に入る。
『この気持ち悪いの、何・・・? これを落とせば・・・直る?』
 ステラ、何かを感じているのか?
 カオスに乗っているのはスティングというステラと一緒にいた少年。
 彼女はエクステンデットだ。もしかしたら仲間同士、分かるのかも知れない。だとしたら、彼女はかつての仲間と戦っていることになる。自分達と同じように日常を過ごした友達かも知れない誰かと。
「止めろ!ステラ。そいつに乗っているのはっ」
 ああ、でも。ここは戦場でシンとステラは立ちはだかる敵機を落とさなければ逆に自分達がやられてしまうのだ。寮機や味方の艦が攻撃を受けるかも知れない。
『でも、シン!』
「俺がやるから、下がれって」
 いつの間まにか背後に回られたカオスが攻撃してくる。
 2対3の計5機の動きを読んで自分はそれを避けられても、ステラはそうじゃなかったのだ。左サイドから近づくもう一機の灰色の新型からのビームがインパルスに命中する。
『きゃあぁぁぁ』
「ステラーッ!」
 煙を上げた後、コントロールを失って戦場を高速で漂うステラ。
 すぐに爆散しないことは分かる、もっと冷静に対処できたかもしれない。しかし、シンは頭に血が上り、体温が一気に上がった。
 それに乗っているのはお前の知った奴かもしれないんだぞ。勝手に連れてきてしまったステラが悪いわけでも、知らず新型に乗るエクステンデットが悪いわけでもない。生体兵器として産み出されたエクステンデットの抗えない戦争の宿命なかもしれない。
 それでも。
 お前ら―――っ!
「よくもステラをっ」
 シンは残像を残して新型に迫る。HUDに浮かぶ赤い点が激しく動き回り、突如上から残りの新型が砲を向ける。
 被照準の警告音が鳴る。
 それはもううるさいくらい。シンは狙い定めていた正面の新型から、身体をシートに押し付けるほどの加速をつけて機首を上げた。
 宙域を縦に貫くビーム砲を避けたデスティニー。
 張り巡らされるバリアを間一髪すり抜けて、何百発と機銃が灰色の機体にめり込んで、装甲を宇宙空間に撒き散らした。すぐさま反転して止めを刺すべく、レーザービーム砲のトリガーに指をかける。
 緑のカオスと、ターゲットから外れた新型が左右に展開していた。ロックの警告音が激しく鳴り響くが、そこに割り込んできたビープ音が。
 何だと確認する間もなく。
 前方で高エネルギー反応。光の点がみるみる大きくなった。


「ビームが・・・」
 シンの目の前を眩いばかりの光が通り過ぎていく、途中不自然に屈折して宇宙を突き進む。
 シンも、相手も動きを止めた。
 視界の端で浮かぶ閃光は何だ?
 この耳に聞こえる悲鳴にならない叫びは?
 スティックにかけていた左手が胸を掴む。何かがつかえたようにちゃんと息を吸えなくて、シンは浅く呼吸を繰り返す。
『シン! シン! どこっ!?』
「ステラ・・・俺たち・・・」
 間に合わなかった。
 敵機は悠然と要塞まで下がり、シンは呆然とした目でそれを見送りつつ、ゆっくりと破損した機体に近づく。誰かが、ひたすらビームやミサイルを放っていたがバリアに阻まれて一つとして届いていなかった。
『直撃だろうな。あの閃光、位置から言って・・・ヤヌアリウス1かっ!?』
 珍しく息を呑むレイにシンは思い出した。ヤヌアリウスといえば、確か臨時の自治評議会が開催されているコロニーだったはず。
 直撃ならみな死んでしまったのだろうか。議長も?
『シン! ステラ! ・・・生きているなら返事してっ』
 気丈にも声を張り上げるルナマリアの声。
 ミネルバに戻らなくちゃ。俺が皆を守らないと。
 でも、敵は大きくて、一撃でコロニーを破壊するような要塞の前に、戦闘機に梃子摺るシンには荷が重くて、唇が切れるほど噛み締めた。
 今、戦場に充満する暗く重たい闇は、無力を感じたコーディネータ達の嘆きなのかも知れなかった。ただ、煤けて尾翼と翼の一部を失ったステラの機体を引っ張るのがシンにできることの全てだった。


「このレクイエムの一撃で奴らも思い上がった態度を改めるでしょう」
『戦争終結も我らに有利に進められるだろうな』
 たった今、超強力なレーザービーム砲を放った要塞内で多数のモニタに向かう若い男が、画面の中の初老の男と会話をしていた。
「頭脳、肉体的に優れているだなどと、馬鹿馬鹿しい。大人しく地上で飼われておればよいものを。後は焦ってコンタクトを取ってくるやつらを待つだけでよいのです」
『後はまかせるぞ、ジブリール。吉報を待っておる』
 手にワイングラスを浮かべて、イスに腰掛けてモニタを切り替えると。後に立つ青年に話かける。
「ああ、君の部下達もよくやってくれたようだ」
 返事がないのを気にもせず、モニタに映される破壊されたコロニーの映像を眺めている。
「感想は?」
 漂う破片に混じって宙域がどんよりと雲って見えるのは数多の有機体が拡散して凍結したからなのだろう。望遠で撮っているが、その宙域がまるで血で染まっているように見えた。
「この光景を見たまえ、世界は正されなければならない。コーディネーターという穢れた存在が生態系の頂点に立つなどあってはならないことだ」


 ミネルバに帰還したシンとステラは悲愴な空気に包まれた格納庫にいた。
 ステラは自力で降りられなかったので、シンが外からキャノピーを手動で開けた。もし、このミネルバの中でいつもと変わらないとしたら、それは凡庸とシンを見上げるステラだけだったのかも知れない。
「シン・・・大丈夫?」
 ステラは悪くない。
 彼女がコロニーを撃たれて悲しみを感じないのは、きっとエクステンデットだからだ。それでも、ミネルバに来て、少しづつ打ち解けてきてそんなことを忘れてしまっていた。忘れたかった。俺達はどこも変わらないのだと思いたかった。
「・・・シン」
 シンはステラを抱きしめる。
 躊躇いもなくミサイルを撃てる少女。
 そんな存在を悲しいと思った。
「泣いているの?」
「泣いてない」
 泣きたいけれど。
 自分もステラと同じだと思ったから。誰だって相手が顔見知りならトリガーを引くのを躊躇うに違いない、しかし、言い換えれば顔が見えなければ打ち落とすのだ。守ると言って、向かってくるものを撃つのだ。
 もしかしたら、俺達は幸せにはなれないかも知れない。血まみれの手で勝ち取った世界には喪失に嘆く者がいる。
 ステラはシンを守ると言って、シンすら振り切ってかつての仲間に牙をむいた。シンの言うことすら聞かずに敵を攻撃する姿はまるで。
 昔の俺もこうだったんだろうか。
 散々シンを心配させたが、結果的にはステラは無事だった。晴れない顔で『よくやったな』と言った彼もこんなやるせない気持ちだったのだろうか。


 シンが現実と遠い思い出に打ちひしがれている時、ヤヌアリウス1から場所を移した緊急の自治評議会でもある結論に達していた。
 即ち、守るために討つと。
 これはもはや独立戦争ではない、生存のための戦いだと。
 宇宙に散った幾千の同胞の前に、報復を思いとどまらせる事はもはや誰にもできなかった。



困った。ちっとも今までの分が生かせない。どうしたらいいのだろう。ラストがどんどん変わっていきます。

しまった。更新Pingを打ってしまった ヽ(;´Д`)ノ

記事メニュー
目安箱バナー