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Men of Destiny 04

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 運んできたコンテナと共にエレベータで下る。眼鏡の男に連れられるままに辿り着いた場所は廃ビルの地下。赤色ライトと青色のLEDゲートをくぐって、重い扉を開けると、少女と少年が待っていた。
「お疲れ様。って、あら?」
 駆け寄ってきた少女はシンより少し大人びて、コンテナに続いて部屋に足を踏み入れたシンに早速気が付いたようだった。茜色の髪と空色の瞳はありそうでない、組み合わせ。何より隙のない動きに相手の存在を知る。
「アンタもコーディネータね?」
 予想通りの答えに、気を引き締める。彼女だけではない、一緒にいた金髪の少年も同類なのだろう。よそ者がいるにしては静か過ぎて、自然と力が入る。
「よせ、ルナマリア。仲間かも知れない」
「仲間?」
オウム返しに呟いたところで緊張した空気が緩むわけでもなく、ルナマリアと呼ばれた少女が身を翻して去っていく。
「まあ、いいわ」
この二人はまるで静と動だ。表情がころころ変わる赤毛の少女と、表情が全く動かない少年。肝心のシンを連れてきた男は終始無言で少女が口を閉じると奇妙な沈黙が降りた。


 シンが気配を感じてすぐ、ついさっきまで無表情だった少年が振り向いた。扉を開けて入ってくるのは長髪黒髪を垂らした背の高い男。
「やあ」
誰とも無しに挨拶をし、出入り口にいた眼鏡の男と2・3言葉を交わしている。ちらちらとシンの方を見るから彼のことを放しているに違いない。案の定、話が終わると長身の男が歩み寄って来る。
「ここがどういうところか知っていて来たのかね?」
 正直よく分かっていないとは言え、のこのこついて来てしまったのは早計だったと少し後悔していた。言いあぐんでいると、まるで心中を察するかのように続ける。
「彼らはコーディネーターだ。無論私もだが、私達は反政府レジスタンスで、コーディネーターの地位向上のために戦っている」
 店頭で見たニュースや噂でそういう組織があることは知っている。しかし実際に遭遇するのは初めてだった。
「君が協力してくれると言うのなら、これほど嬉しいことはない」
 戦災孤児として生きてきた4年間の経験が警鐘を鳴らす。できるだけ隠れるようにして生きてきたのだ。しかし、転機である事も確かで。退屈な毎日、食うに困る日々を一生続けるのだとは到底考えられない。
 一人で生きてきたという自負と、もう限界かもしれないという焦燥がせめぎ合う。
 一人で眠りにつく夜の寂しさと、暖かい食事を囲む食卓と温もりを自分は思い出してしまって。
「俺はシン。仲間にはならないけど契約に基づく協力ならいい。いくらで雇う?」
 君は素直じゃない。と言った彼の顔が浮かんだ。


「ところでシン、室内でゴーグルなどして見難くないかね」
 彼はこのレジスタンスのリーダー格でギルバートと名乗った。ルナマリアと一緒にいた少年はレイと言うらしい。コーディネーターのレジスタンスの中で瞳の色を隠す必要など無く、シンはゴーグルを外して首にかけた。ルナマリアの視線を感じ、ギルバートが嬉しそうに目を細める。
「本当にきれいなルビー色だ」


 手渡されたのは細い円筒形の棒。


 戦時中、見たことがあった。
 父と母と妹と、住みなれた家を出て町を離れ、疎開列車に乗り遅れないように走っている最中に見た青い光。攻め込んできた敵軍をなぎ払い、シンの家族ごと焼き尽くしたコーディネータが手にしていた武器。
「これ・・・は」
 死体に気づかず、新たに出現した敵軍に向かっていく後姿。妹は千切れた腕しか残らなかった。
「どうかした? あっ、やっぱり驚いたでしょ。なんて言ったってコーディネーターと言えばこれですもんね」
ブォンと音を立てて出現する光の刃。室内で見えるその色は、シンの記憶とは違う朱色をしていた。
「ライトセイバーを室内で振り回すのは止めろ」
「はいはい」
 シンは手渡されたものを持っている手にひどく汗をかいていることに気づいて、自分のライトセイバーの色を確かめもせずに鞄に仕舞いこんだ。できるなら見たくない。それでも、もしこれがあったのなら、あの時、家族を守ることができたのだろうかと考えてしまう。
「あまり嬉しそうじゃないのね。でも、早速お仕事よ?」


 灯火管制のひかれた街は夜8時になると明かりが落ちる。それに乗じて彼らは搬入予定の物資を狙い、闇夜に乗じて奪う。貧富の差が拡大した街では高官と復興企業が癒着して私服を肥やしていることは噂話好きでなくとも知っている。
「レジスタンスが盗賊まがいのことをするのか?」
「盗賊だなんて言わないでよ。どうせなら義賊と呼んで?」
 盗んだ物資を貧民街で格安で売りさばく。こうして得た資金で同志を募り、組織を拡大していくのだと言う。あまり効率のよいやり方とは思えなくてシンは頭をひねる。
「時間がかかりそうだな」
 渡されたライトセイバーを振りかざして思わずあとず去った。金網やフェンスが意図も容易く解けてしまって、シンは驚いて震える手を隠すために強く握る。監視カメラの巡回パターンギリギリでてを引っ張られて、小声で注意されたのだが。
「しまったっ!」
 予想に反してルナマリアの声に反応してしまったのか、辺り一体で警報が鳴りはじめる。あらかた物資の搬出は終わっていたから良かったものの、シンとルナマリアは別々にそこを脱出することになった。明日の朝、アジトで落ち合う約束をして。


 明かりのない夜の街はシンの庭だった。いつも姿を偽って歩いた商店街も、一仕事を終えた夜は堂々と歩いたものだ。暗闇の中でシンに気づくものはいない。
「シン?」
 呼び止められるまで気配に気が付かなかった。シンは背中に冷や汗をかきながら声の出所を探る。
「・・・・・・あんた」
 巡りあわせとは奇妙なもので、この暗がりでシンを見つけることができるものがいた。そこは奇しくも先週シンのケンカを止めた場所で。シンもそれが誰だか分かる。
「ひどい格好じゃないか」
 シンの煤けた格好から、目を凝らせば浮かび上がる燐光を放つ手のライトセイバーを見る。そして、ゆっくりと視線を戻して彼が目を細めた。

予定外の人物が出てきています。再会が早すぎたような気もするがまあいいってことよ。

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