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刹那の中に




 地球軍衛星軌道艦隊。
 左前方にはコーディネーター、ザフト軍の要塞メサイアが太陽光を受けて一際大きな輝きを放ち、コロニーが同じように漆黒の宇宙に浮かび上がっている。右手には戦火の炎と火を噴く自軍の要塞、ダイダロス。
「彼らも好きだねえ。所詮は同じ穴のムジナ、か」
「大佐、インフィニティが来ます。被弾しているようです」
「奴には被弾くらいどうって事ないだろ。月軌道艦隊を潰せと伝えろ」
 居並ぶ戦艦のブリッジで呟く仮面をつけた男、ネオ。
 移動を止めないメサイアと両脇の艦隊はどう見ても臨戦体制。
「こちらも戦闘は避けられない、か。エグザス、出るぞ」


 ガタガタと揺れる計器は既に振り切っていて、ひたすら追いかけるシンの前に地球軍の衛星軌道艦隊が立ちはだかる。深紅の機体はその光点の集団を抜けてメサイアに向かっている。
「たった一機で何をしようというんだ!?」
 メサイアの周辺にはザフトの艦隊も展開しているのだ。辿り着けるわけがない。
 だけど、もしかしたら?
 今までの信じられない動きが頭を掠めて、万が一を予想してしまう。楽観するわけにはいかないのに、地球軍の大軍が待ち受ける。
 時間がないってのに!
 シンは臨界を越えて追いかけるが、離されない代わりに追いつけもしない。
「くっそぉ―――!」
 デスティニーの接近を感知した地球軍艦隊の一部が転舵してくる。HUDでは自分の背後にダイダロス攻略に出ていた月軌道艦隊が続いていた。
 挟み撃ち!?
 だけど。
 メサイアの防衛軍と月軌道艦隊、それらが地球軍の艦隊とぶつかれば、戦域が拡大してそれこそ彼の思う壺だろう。


 と、突然、後から無数のレーザービームが放たれる。
 前方の地球軍艦隊で上がる爆発に消されそうな通信が入った。
『ここは僕に任せて、君は行ってっ!』
 砲撃の主はフリーダム。通信の合間にもレーザービームは幾重にも放たれて、シンは当たらないように縫うように飛ぶ。フリーダムのフルバーストを端緒にして、ついに、両軍がぶつかった。


 猛スピードで宇宙をかける深紅の機体が、待ち受けていたエグザスに見向きもせずに後方へ点となって消える。ネオがエグザスのコックピッドで繋がらない通信に舌打ちする。
「どういうつもりだ!? おい!」
 問いただそうにも、インフィニティを追ってきたザフト軍所属機が迫る。
 色褪せたトリコロールが、太陽光線を反射する。
 ザフトの間での一番の手柄がインフィニティなら、地球軍にとってはあれがそうだった。
 残像を残して飛び回るトリコロールの機体。
 デスティニー。


 お互いのコックピットでアラートが鳴り響く。
 シンはモニタに映る紫のパーソナルカラーを持つ機体を見据える。初めて見る色なのに、身体が覚えている。機体を通して伝わる相手の姿。
「お前・・・ステラと一緒にいた!?」
 仮面の男か。
 思い出す、幾たびの対峙を。


 向かってくるものは全て打ち倒してきた。
 あのフリーダムやダイダロス要塞だってシンが止めたのだ。そして今、地球軍の中にいるステラのかつての上司を前にシンは選択を迫られる。
 殺さずに、殺されずに勝つ方法を。
 手加減なんて、自分がされたら一番嫌な事をするつもりもなければ、きっと指揮官機相手にそんな器用なこと、どうせできやしない。逃げ回るのも嫌だ、それは味方の損害に繋がる。かと言って、全力を尽くして撃ち落せたとして、ステラが泣くのも嫌。
 嫌だ嫌だと、シンは答えの出ない問いの間でもがく。
 そうしている間にも、インフィニティがどんどん遠くなる。
『何をしている! オペレーション・シードが発動された。早く行け、シン!!』
 レイからの通信。
 シード? そんな作戦、俺には何も。
 気が付けば、メサイアとダイダロス要塞の間の宙域に地球軍が展開し、明らかに包囲戦。
 その外側に半数以下に落ち込んだとは言え月軌道艦隊がいて、ラグランジェポイント周辺での最終決戦宙域にとんでもない数のミリタリーパワーが結集する。
『アンタ、何のために飛ばしているのよっ!』


 シンは、目を閉じれば浮かび上がる深紅の機体を探す。
 いた。
 まだそんなに離されていない。少なからず、被弾した影響が出ているのだろう。スティックを引いて、紫の機体へと機首を向ける。
 このまま、ルナやレイの好意に甘えてこの場を任せるのもいい。
 だが、これは逃げだ。
 俺が対峙しなければいけない問題で、先送りにはできない。嫌でもどれか一つを選ばなきゃいけない。それなら、俺は。俺にできることは。
『シン・・・アンタって本当に馬鹿ねえ。いっつも一人で抱え込んで、なんでも一人でやろうとして。本当にしたい事は口にしないと伝わらないのよ?』
 ルナ、こんな時に何を言ってるんだよ。
『だって、ルナ!』
 こいつを倒さなきゃ前に進めないじゃないか
『言い訳するなシン。何のために俺たちに言葉があると思っている』
 でも、レイ。俺は戦士で、戦うことしかできないんだ。
『ステラ戦う、でも、シン・・・』
 ステラ!?
 こんな所まで来たのか。よりによって、一番に挑むのがステラとは。相方からレーザービームが撃たれる。
「ステラ、そいつはお前のっ!」
 そいつに何かあれば、ステラはきっと泣くよ。
 アウルって奴の時みたいにすごく痛いんだ。
『みんなで決めて、皆で力を出し合って、皆でその痛みを分かち合えばいいのよ』
『お前も俺も、ルナや彼女も、したいことは自分で決める』
 シンと紫の機体の戦域にルナとレイが加わり、最後にステラのインパルスが姿を現す。
 そしてその後には灰色の新型が続いていた。
 敵味方が入り乱れて、4対3。
『ステラ、アスラン好き。みんな一緒なら、嬉しい。シン、嫌?』

 俺、は―――――― 嫌なもんか。

「俺も、好きだよ」

『だから・・・頑張るの。・・・シン・・・』
 シンもアスランも、一人じゃない。


「ステラ・・・」
 彼女は。
 最初にアスランと認めて、シンを守るために彼を止めたのは彼女だった。
 戦う為に生まれた少女は、自分よりも真実が見えていて。お互い守り守られ、ミネルバで宇宙に上がったら、生意気にも皆一緒だと言うまでになっていて。
 挙句の果てに、自分の望みを代弁されてしまった。
 それなのに、自分はルナやレイに言われるまで気が付かなくて。
 平和な世界とか、コーディネーターの国とか、遠まわしに自分を納得させてきたけれど。それがどんなものなのか、本当はちゃんと見えていなかったんだ。
「ありがとうな、ステラ。俺もアスランさんと一緒がいいよ」


 家族を無くして、最初に出合った人。
 お人よしで、俺の憧れで、ライバルで、超えられない壁で、仲間達と、俺の右手の仇。
 簡単な言葉で括れないあの人だけど。
 皆、同じだというのなら。
 その口から本当の望みを聞いて、一緒に考えて、一緒に目指せばいい。
「俺だって、何がしたいのか、アスランさんにまだ聞いてないや」
 あの人一人、受け止められない世界じゃないんだ。


『なら、さっさと聞いて来い! この腰抜けがっ』
 いきなり喚き声が割り込んで、シンは無理と分かっていてヘルメット内のスピーカーから耳を遠ざけようとした。
「ジュール隊長!?」
 後方に白の機体がいて、一気に戦列を押し上げる。
『本当なら俺が一発殴ってでも、引きずって来たいところだが、貴様らにそれは譲ってやる』
 一人で決断して、一人で何でもするって言うのは、実は、自分自身に言い訳すれば済む一番簡単なことなのかも知れない。だから、思いを託し、託されて、分かち合うことは重い。
 前に進むことを。
 俺がアスランさんを追いかけることを、皆で決めた。
 本当に大切なのは、何を選択するかじゃない。
「ありがとう、ございます!」
 何が起ころうと選んだ先にある世界から、目を逸らさない事。


 飛び交うレーザービームやミサイル。
 わき目も降らずに突き進むデスティニーが、深紅の機体を捉える。もう、メサイアは目と鼻の先で。背後から灰色の新型が全包囲に放つビームが機体を掠める。
 包囲を突破した地球軍の新型がメサイアへと機首を向ける。
 デスティニーを先頭になだれを打って、数機がメサイアに向かう。
 防衛のレーザービームが降り注ぎ、突如コックピットにレイから割り込み通信。
『シン! 逃げろっ!』
「軸線上退避勧告!?」
 こんな、いきなり。
 逃げろって、何が、どこへ? と訳もわからずシンはスティックを倒す。
 前方で急上昇するガンマ線レベルが、急いで退避したデスティニーの眼下を突き進む。
 シンはその渦巻く黒い砲撃がなんなのか知らなかった。あまりの威力に呆然と切り取られた宇宙を見る。
 頭に飛び込んでくる声が『ジェネシス!』と叫ぶ。
 残骸すら残さず、一瞬で消滅した。
 みんなは?
 アスランさんは!? 
 心臓が早鐘を打って、背中を冷や汗が流れるが、ルナの通信で我に返る。
『シン! あそこっ』
 融解した機体がゆっくりとメサイアに落ちていく。
『アァァァ・・・死んじゃう・・・イヤ・・・イヤ』
 ステラの悲鳴に一瞬息が止まり、横合いから鉄くずと貸した機体をゆっくりと周回する深紅の機体を見て、それが灰色の新型の一機だと気付く。
 まるで緋い炎を纏っているように見える。
 目が離せない。

 早く、行かないと。
 声が聞こえない。
 カオスが墜ちた時にあれほど聞こえた怒りが、悲しみが、何も伝わってこない。
 シンの中でうるさいほどに警鐘が鳴り響く。

 混乱の中、深紅の機体がメサイアに取り付き、数ある射出カタパルトに消える。
『ステラのことは心配するな。俺たちがついてる』
「レイ」
『シン。オペレーション・シードの標的には、お前も入っている』
 え?
 俺がターゲット?
 レイの機体がシンの前に踊り出て、くるりと機首をめぐらせて、メサイアを指し示す。
『行って真実を掴め。お前なら・・・別の答えを出せるかも知れない』
 戦火の光が再び戦場を染め上げ、2機の近くで爆発が起こる。
 爆煙の中、姿を現した残った地球軍の新型がメサイア目掛けて突進する。
『早くっ!』
 シンは射出口を目指してサイドスティックを倒した。


 メサイア内部は巨大なドックのようになっていて、片隅に漂う灰色の機体を見つける。キャノピーがスライドするのを見てシンは自らも飛び出した。作戦中ならメカニックやパイロット達が右往左往しているはずだった。だが、黒煙とコードから飛び散る火花がシンの目に入る。
 爆撃されて無残なドック内の状況。
 壁面は黒く焦げて、原型を留めない機体の破片の向こうから声が聞こえる。
「これは命令だ」
「命令違反はアンタも同じじゃんっ!」
 声が聞こえる方向が変わるから移動中なのだろう。
 壁を蹴って聞き慣れた声を追いかける。銃撃の音が聞こえ、青いライトセーバーの光が要塞の通路に舞った。
「お前だけでも生き残るんだ」
 血の珠を漂わせて動かぬ兵士達を掻き分けて、ライトセーバーに手をかける。
 声が近い。
 通路の角を回ったところで、シンは地球軍のパイロットスーツを見つける。一人は水色で、もう一人は紫に黒。
 見つけた。
 しかし、もう一人が血相を変えてライトセーバーを振りかざす。
 そこで、ようやくシンは突っ込んでくる少年に意識が行った。

 ・・・アウル? お前、は。俺が・・・。

 シンは大きく目を見開きながらも、咄嗟にライトセーバーを抜いて眼前で受け止める。切り結ばれた光の刃がブオンと音を立て、電磁音に混じってバチバチとショートした。両腕に力を込めて、にらみ合う。パイロットスーツのメットに隠れてしまって、全部は見えないけれど、記憶の中の顔を同じ。
 生きていた?
 そんなはずはない。ロドニアの古城で俺が殺したエクステンデット。
 あの時の衝撃を覚えているのに。


 しかし、時は過去を繰り返すことはあっても、止まることはないのだ。
「いたぞっ!」
「侵入者だっ!」
 メサイアの警備兵やザフトの本部詰の連中が姿を現した。マシンガンを構えて、銃口から発砲するのが見える。
「止めろ!! 奴はザフトレッドだっ!」
 誰かが叫んでいたが、もう遅い。
 爆ぜる炎と硝煙を突き破って銃弾が何十発、何百発も来る。
 避けきれない。
 俺と、こいつと、アスランさんと。


 キ―――ン。
 シンの耳を打つ、空間が震える音。
 今まで聞いたどれよりも高く、長く響き、視界の端で通路の壁が波打つのが見えた。
 まるで透明な何かがそこにあって、空間を押し広げているよう。


 波紋がゆっくり広がって、放たれたマシンガンの弾を宙に留める。
 しかし、時間が止まったのは一瞬のことで、すぐにメサイアの兵士達を飲み込んだ。間髪いれずに通路の果てまで飛ばされ、壁に飛び散る血飛沫。反転した銃弾を浴びたにしては身体がおかしな方向に捩れている。
「そんな・・・」
 全身が痺れて、うまく舌が回らない。霞む視界の中で、力なく浮かぶ水色のパイロットスーツ。さっきまで、切り結んでいたのに。漂う姿はもはや指先さえまともに動かせないのか、びくともしない。
 事態を一気に逆転させた張本人はその光景を冷たい顔をして見つめている。
 そのグリーンの瞳に光はなく、いや、ぼんやりと光を放って瞬きすらしない。

 アンタ、もう、止めてくれよ。

 メサイアの通路で響くサイレンが次第に大きくなって、ようやく取り戻したシンの目の前で彼は仲間であるはずの少年の横をすり抜ける。
「ま、待てよっ!」
 シンは一度エクステンデットの少年を振り返って、壁を蹴って後を追った。
 一つブロックを抜けると通路の壁の色が変わる。

 いつまでも追いかけっこしている余裕はないのだ。シンは、前方に虎縞で縁取られた隔壁を見つけて腰から銃を抜くと、迷わず隔壁横のコントロールパネルを狙った。
 閉じる非常隔壁と振り返る敵軍の兵士。その右手が壁に設えたコントロールパネルを叩く。
 閉ざされていたドアが冷気を吐き出して、開いた。


 シンは酸素を確認して、ヘルメットのバイザーを上げる。
「今度はなんて呼べばいいんです? アレックス? アスラン? それとも・・・」
 挑戦的な声でシンは問う。
 少し肩を揺らしゆっくりと振り向いて、見慣れた横顔で彼が言う。
 半分閉じられた目が開いて、今度はちゃんと熱を持った緑の瞳がシンの前に現れた。
「アスラン、だ」
 右手の青いライトセーバーが、ブオンと音を立てる。



今回は惨敗です。認めます。くっ。