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Men of Destiny 51

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匿名ユーザー

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打ち響く鼓動




 透過パネルに映し出される宇宙を切り裂くレーザービームと爆発。
「あれは君の仕業かね」
 正面のパネルには、メサイアを取り囲む地球軍の背後に迫る炎を上げる地球軍の要塞。
 メサイアの中央指令所に動く人影の間に沈黙が起こる。それが答えだった。
「プラントにあった遺物を運び込んだのは貴方ですか、議長?」
「なるほど。要塞ごと、メサイアもろともSEEDの記録を消し去るつもりだね」
「俺のしたことは許されることじゃない。ですが、大人しく、殺られてやる程できた人間じゃないんです」


 シンはアスランが消えた扉をライトセーバーでこじ開けて、左右も分からない通路を進んだ。動力が生きているおかげで通常重力が効いている。勘を頼りに壁を蹴り、床を蹴る。
 気配を探るが捕まえることができない。
 くそっ、どっちだ!?
 通路は予備電源に切り替わって、赤い非常灯が点いている。退避命令を受けて、漂う兵士を掻き分けて、シンが来た方向に向かう兵士達の群れ。
 アスランさんの狙いはきっと、議長だ。
「君も早く脱出するんだ! 時間がないぞっ」
 だれか親切な軍人が声を掛けてきた。
 脱出? 攻撃されている・・・メサイアが沈むのか?
 が、シンは止まらずに軽く身体をひねって手を上げた。
「仲間を置いて行くなんて・・・できません!」
 例え地球軍の軍服を着ていても、シンの見知った髪の色でなくても。
 彼が アスラン と言うのなら。
 あの人は、一緒に未来を目指したい仲間。

 戻るんだ! シン。

 アスランを止めて!

 戻れという声と進めと言う声。
 どちらがどちらのものかってのは分かる。そして、シンが従うべきものも。
 T字路になっている通路で壁を蹴って、進路を変える。

 お前は、死にたいのか!

 突然、目の前の隔壁が閉まる。まだ要塞の要員がいたかもしれないのに、強制的にシンの行く手が塞がれていく。
「身体が・・・!?」
 それどころか、重力フィールドが解除され体が浮き、ダクトのエアを調整して、勝手に元来た方へ体が流されていく。
 アンタが俺を助けようとしてくれているんだってことくらい分かるさ。
 でも、でも、俺だって同じくらい助けたい。
「負けるかよっ!!」
 シンは気流に逆らって、閉じかける隔壁を目指す。


「貴方には感謝しています。貴方がいなければコーディネーターの独立はなかった。ですが、ここまでです。その先は俺がさせない」
「ほう、何をさせないと言うのかね」
「SEEDを持つ者の抹殺」
 嬉しそうに目を細めたのは議長で、軽く手を上げる。
 壁と天井の間のダクトが開いて、ガシャンと機械仕掛け兵がずらりとアスランを取り囲む。
「如何に人心を自由に操ろうとも、これはそうはいくまい」
 機械兵の頭上を抜けて打ち込まれるトルネードを難なく避けたアスランに、槍のように突き立てられたライトセーバーが一挙に向かう。
 青いライトセーバーと光が交錯して、中央指令所を黄緑色の矢が駆け抜けた。指令所のコンソールや機器に当たってバチバチと火花を飛ばす。
 バタバタと崩れ落ちる金属の塊達。
「ただの物体の方がはるかに簡単なんですよ、議長」
 アスランが、議長の正面の階下から再度向かい合う。
 起死回生の機械兵が一体残らず残骸となっても、議長は軽く眉を潜めるのみ。
「なるほど、これもSEEDの力か」
「違います。コーディネータなら訓練次第で誰でも身に付けることができま―――っ!?」
 ブーンと僅かな音を立てて震える中央指令所。
 床全体が白く光っていた。
 咄嗟に頭上を見上げたアスランが頭を押さえて膝をつく。
「何の供えもなく、侵入を許すと思ったかね」
 天井には回転するリングが3つ。
 指令所の入り口からは巧妙に隠された、逆さまの3本の柱。
「意志を遍く伝播する装置、リバースさせるとどうなるのだろうね?」
 苦痛に顔を歪ませる。
 カンと音を立ててライトセーバーが床を転がる。
 見開かれた目にいくつもの光が注ぎ込んで、アスランの動きが止まった。


 一方、メサイア周辺の戦闘が一層激しさを増して、シン達の動向が掴み切れていないミネルバでは、戦闘宙域に流されたメッセージに驚いていた。
『両軍とも直ちに戦闘を停止してください』
 発信源をメイリンが告げる。
「エターナルです!」
 傍らにアークエンジェルを従えた、ピンク色の戦艦。
 声は誰もが聞き知っている、平和の歌姫のもの。
 だから、困惑する。
『敵と叫んで戦い、大量破壊兵器で敵をなぎ払うことが、今、ここでなすべきことでしょうか? ダイダロス要塞がザフト軍の要塞と衝突したなら、多くの命が失われてしまいます』
 困惑は驚愕に変わり、ミネルバのブリッジでタリアがシンやルナマリアを確認するように指示を出した。
 しかし、両軍の戦闘は止まることなく、地球軍からエターナルに向けてレーザービームが放たれる。間髪おかずに倍になって返ってきたビームに撃墜された。
「確認してっ」
「73分後に・・・衝突しますっ!? 予想被害範囲はメサイアを中心に半径9百キロ・・・」
「艦長! メサイアから緊急暗号電文がっ」
 タリアが戦闘を続ける両軍を映すスターボードを見上げた。
 地球軍の衛星軌道艦隊、ザフトの月軌道艦隊の残存部隊とメサイア防衛艦隊がひしめき合っている。
 その中にはミネルバも、ミネルバ所属の戦闘機もいる。
 シンもルナマリアもステラもレイも、戦っている。
「シン達はっ? 大至急離脱よっ!!」
 連絡を受けたルナマリアがレイに確認を取ろうとした時、もう一機のインパルスがメサイアへと下っていく。
「ちょっと、ステラっ!?」
『ステラ、シン、助けるっ・・・』


「ようやく、事態に気付いたか」
 透過パネルを眺めていた議長が、天井を見上げたまま身動きしないアスランに向かって銃を向けた。
 数秒の呼吸を置いて。
 銃声。
 パイロットスーツ姿がぐらりと揺れて床に血痕が落ち、続けざまにいくつも銃声が響く。
「これは・・・大した生存本能だ」
 微かだが、緑の瞳が議長を捉えている。
 僅かに軌道を逸らして急所を外していた。
「では、もう少しレベルを上げるとしようか」
 瞳孔がきゅぅっと収縮する。
 一歩踏み出した議長が引金を引いた。


 朱が走る。
 光より早く中央指令所を突き抜け、天井に突き刺さる。
 天井で輝いていた青いリングが、小さな稲妻を吐いて止まった。
 同じくして、血よりも鮮やかな紅の体躯が駆け抜ける。


 シンは状況確認する前に、倒れ込むその人を抱えていた。
 中央指令所に飛び込んだ時、膝を付いて上を見上げるアスランが目に入った。
 名を呼ぼうとして気付いた異変。
 視線を追えば、瞬時に天井にあったものが何なのか分からないわけがない。ついさっき、アスランに見せられたものをずっと小さくしたそれに、咄嗟にライトセーバーを投げていた。
「シン、君か」
 自分は間に合ったのか・・・間に合わなかったのか。
 手が震えている。
「議長。こんな所で何をしているんです。メサイアは退避命令が出ているはずだっ」
 シンの腕の中の人は、腿から血を流していた。流血はそれほど酷くないのに身じろぎ一つ、瞬き一つしない。
 何をしたんだ。
「世界を救うと言ったら大げさ、かな」
「世界を救う?」
 オウム返しに問い掛ける。
 アスランが動かないことと関係があるのか?
「そう、災厄から人類を守り―――」
 議長の言葉を最後まで聞く前に、揺れが伝わってきて覗き込んだ。
 ゆっくりと光を取り戻すグリーンの瞳にシンが映っていて。
「・・・シ・・・ン・・・」
 笑っているのか、怒っているのか分からない表情。
 息があることにひとまず安堵するものの、語り続ける議長の声が耳に入って眉を顰めた。
「市民が制御できない力など、世界にとっては危険なのだよ」
 それが文化社会であり、文民統治の前提だ。
 定められた法の中で自由を謳歌し、見合った責務を果たすことでつかの間の平和が維持されてきた。芸術でもスポーツでも、学問でも何であれ、人は社会という枠組みの中で自己を実現してきたのだ。
 しかし、SEEDの力は個人が持つにしては大きすぎた。
 常識を覆し、経験を凌駕する。そんな存在と共存し、国家を納めるためには社会のコントロール下に置く必要があった。
「しかし、君達はまた同時に個人として尊重されなければならない。我々にできることは、混乱が起こらないように祈るだけだが・・・」
 今までは、自然という形で人類の周りに存在していて、人は歴史の中で対処法を学んできた。
 堤防を作り、ダムを作り、防波堤を作る。
 家を建て、肉には火を通し、寒さには服を着ることで忍んだ。
 人類は環境を征服することで地球上で生き長らえてきた。
「我々と同じ形をしているとすれば、もはや、悠長に構えていることなどできないではないか」
 シンは上段から見下ろす議長を見上げる。
「だけど議長。それじゃあ、ナチュラルと何も変わらないでじゃないですかっ!?」
 駆逐されるを恐れて、囲い込むことに躍起になる彼ら。
 その現状を脱するために戦っているのではなかったのか。
 わざわざ宇宙に安住の地を求めてまで。
 迫害のない新天地で、コーディネーターの新しい歴史を紡ぐのだ。
 その為に、俺は。
 エクステンデットと戦い、フリーダムと戦い、アスランさんと戦って。


「君はSEEDが新しき人類だと、進化だと、本気で信じているのかね」
 議長が見上げるのは側面の透過パネルで、撃ち合う両軍が映っていた。
 しかし、爆発したのは攻撃をした両軍で。
「フリーダムがっ」
 シンにはフリーダムが両軍に向けて発砲しているように見えた。
 見ようによっては、メサイアや防衛艦隊を攻撃する地球軍を撃ち、地球軍を攻撃しジェネシスを守っているコーディネーターのザフト軍を撃っているように見えるかも知れない。
「その力を、相手を倒すことにしか用いない」 
 両軍の砲火を難なくすり抜けて、7色のレーザービームが放たれる。
 容赦なく撃ち落されていく両軍の戦闘機、戦艦。
「分かり合える力を持っているのに、自分を犠牲にしてまで討とうとする」
 議長が、膝を付いて腕を抑えたアスランを見る。
「人類の叡智から最も遠き選択だ。それでなぜ、新しい人類などと言える」
 4年の歳月を経て再びSEEDが世界に姿を現した時、やはり、SEEDを持つ者を注意深く観察していた者がいた。
 そして、4年前とは違う結論を導き出した。
「SEEDなど、果てしなく戦い続けるだけの存在。だからこの私、ギルバート・デュランダルが排除しようというのだ。滅亡の因子を」
 それが世界を救う。
 果てしなく続く戦いの連鎖を止める道。
「世界の為に消えてもらおうか。それが君達の運命だ」
「・・・運命・・・」


 透過パネルに映し出される迫る紅蓮の塊。
 衝突まで、後1時間。



頭の中のお話と、何だか違うような気がします。次回と会わせて一回でよかった気もします。次回はいよいよ最終回です。本当に、ここまで来るのに長かったです。議長が出ると語りが長いから、今回議長オンステージでした。ごめんの、あのセリフ。粛清のほうがやっぱり・・・。

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