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20XX NewYork 3

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匿名ユーザー

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 眠らない街ニューヨーク。
 情報が光の速さで飛び交い、科学が発達した現代に、血を吸う化け物なんて。昼も夜もないこの街で、吸血鬼だなんて馬鹿げてる。市民のデータは全てデジタル化され、国が管理しているし、弟のキラだって小さいが情報産業の会社を持つ身だ。スーパーでの買い物記録から地下鉄の乗車記録まで突き止められるのだといつも言っている。
 まあ、それはちょっと大げさだが。

 だけど・・・。
 カガリはキラにああ言ったものの、不安を消せないでいた。ニューヨークは毎日サイレンの絶えない、犯罪都市でもあるからだ。人知れず犠牲となっている人がどこかにいるのかも知れない。

 無言でテレビを見つづけるキラに話し掛けづらくて、今日はもう寝ることにしたと、リビングを後にしてバスルームでコックを捻る。

 しっかりしろ、カガリ!
 私が不安になってどうする。
 両手で頬を叩いて、曇ったバスルームの鏡を手でぬぐった。


 しかし、真っ先に飛び込んできたのは、見慣れた自分の顔ではなかった。

「そんな・・・」
 カガリは胸にある痣をなぞる。
 昨日まではなかったのに胸のふくらみの間にある黒い痣。キラに刻印が出たのと同時に現れたそれは紛れもなく、狩人の印、一族の使命。
 少しだけホッとして、頭からシャワーを浴びる。
「私も一族の人間だったんだよな・・・」
 カガリには難しいことは分からない。頭を使うよりは身体を動かしているほうが好きで、キラが学生の身分で起こした会社のこともノータッチだった。弟に刻印が出たこともどこか頭で納得していた。自分はできそこないだから、と。
 だが、先祖はそんな甘えを許してはくれなかったようだ。

 うん。
 会社だってこれからなんだ。
 吸血鬼を追い続ける宿命なんて、これで終わりにしてやる。
 カガリは髪から滴る湯をバスタオルでガシガシと拭いて、リビングへと向かった。


 20XX NewYork 3


 冷蔵庫を開けて、ポケットに入った1Lのボトルを取り出す。
 シャワーの熱いお湯がすっかり冷えてしまって、髪の端からぽたりとタオルの上に落ちる。キッチンのグラスにボトルから波波と注ぎ込んで、しっかり腰に手を当てて口に運ぶ。
 喉を潤すのは、有機栽培100%トマトジュース無塩。

「ぷは―――っ」

 一息でごくごくと飲み干して、タンっとグラスを置いた。盛大に息を吐き出して、キッチンの窓から見える夜景を見上げた。遠く見える百万ドルの夜景は地上の星のように輝き、夜を照らす。もうすぐ日付が変わると言うのに、まるで夜の闇を覆い隠すようにひたすら明るく、騒がしく、休むことなく動き回っている。

 追い立てられているのは俺達も同じだけど。
 彼らも生きるために必死なんだよな。

 その生への飽くなき欲望が吸血鬼のエナジーとなるのだ。

 たかがトマトジュースで気分を良くしたアスランは、久々のスリルに意気揚揚と部屋の姿身の前に立つ。勿論それは虚しく背後の壁を映すのみであったが、つぅ・・・と指で触れた。波紋が広がるのと同時に、吸い込まれるように鏡の中に踏み出した。

 鏡の道は吸血鬼に限らず夜の眷属が良く使う移動手段で、上級に属するものなら出口さえ開いていれば手軽に行き来できる。出口が開いてない場合は仕方なく戻るしかないが、アスランは強引にこじ開けて、出口の鏡から這い出した。
「よっこらしょっと」
 片足づつ床につけて、今出てきた鏡に背を向ける。
 壁を埋め尽くすマホガニーの本棚とかび臭い匂い。年代者の書物が意味もなく部屋にいるものを圧する部屋で、頭をぐるりとめぐらして肩の力を抜いた。
「いないのか」
 口から出たセリフは落胆するものなのに、声音に安堵が混じる。
 あいつ・・・一々口うるさいからな。とは、絶対に本人の前では言えない。

「どこに行ったんだ? ライブラリでまた本のカビになってたりして」

 むしろ展示品のミイラと間違われてたりしてな。

 アスランが気持ち笑いながら鏡を離れようとした時、右後方から声が投げつけられた。

「残念だったな」

 びくっとして、振り向く。
 今確認したばかりの本棚の前に、男が一人、腕を組んでもたれかかっている。真っ直ぐな銀髪から大きく傾いた月の光が零れ落ちた。

「イザーク! 驚かすなよ・・・」
「不法侵入しておいて驚かすな、か? 貴様、何度言ったら分かる。連絡くらい寄越せ。礼儀を弁えろ。何時だと思っている! 大体、そのだらしない格好は何だ。手ぶらで来るんじゃない」

 こいつ。今、何気に手土産を催促しなかったか?

 アスランは相手を伺い、とは言え、自然と笑みが零れるのを止められなかった。久しぶりに会った友人のいつもと変わらない態度。不敵な仕草と物言いが懐かしい。
 イザークと呼ばれた銀髪の男も言い方はきついが、にやりと笑う。まるで部屋が動いているかのように歩いてくるイザークと鏡の前で再会する。
「久しぶり」
「ああ」

 その部屋にあったのは、アスランの部屋の何の変哲もない姿見とは違う、年代物の、それこそ骨董的価値のありそうな大きな鏡。

 しかし、今は真っ暗な部屋だけが、静かに映っていた。



ひたすらカッコイイんじゃなかったのか? 今更ながらナビゲーションを付けてみました。

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