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働かざる者食うべからず





 セイバートリィの所まで戻ったシン達は飛空艇の外で待っていたヨウランとヴィーノを見つけた。深刻そうに話し合っていた二人はアレックスを見つけると、だっと駆け寄ってきて2人して口を開いた。

「マジやばいっす!」
「非常事態宣言を要請します!!」

 非常事態宣言?
 なんだ、それ。

 シンは拳を振って真剣に訴えている二人に首を傾げる。同じようにステラも唇に人差し指を当てて首をかしげているが、1人事態を把握したミーアがポンとアレックスの肩に手を置いた。

「オトーサンも大変ね」
「人事じゃないだろ、ミーア」
「あら、稼ぐのはオトーサンの仕事でしょ?」
「おいっ」

 額に手を当ててアレックスががっくり肩を落とした。ミーアがヨウランとヴィーノに飛空艇に戻るように指示し、アレックスを見る。考え込んでいた彼がシン達をぐるりと見渡した。

「よし。稼ぐぞ。―――非常事態宣言だ」

 うん。と独りで頷いているからさっぱり訳が分からない。

「?」
「どちらにせよマルキオ教本山は足で登るしかないしな」
「まあ、それは大変ですのね。では急いで麓まで飛空艇で参りましょう」

 ラクスが飛空艇に向かい、キラが後に続くが、その肩をアレックスが掴んだ。

「ちょっと待て。その前に―――モンスターハントだ」

 モンスターハント?
 シンは初めて耳にする言葉にステラと顔を見合わせるが、ステラは顔をパァッと輝かせて両手を合わせた。ウッと身構えてシンはラクスとキラを見ると2人は嫌そうな顔をしていた。どうやら知らないのはシンだけらしい。

「わたくし達には時間がありませんのよ?」
「君は事の重大さを分かっているの?」

 何やら2人は必死な様子。何としてもそのモンスターハントとやらを阻止したいらしいが、アレックスが組んでいた両手を解いてビシッと指差した。

「誰のせいでこうなったと思っている!」
「話が見えませんが」

「うちは元々4人の空賊だったのに、ここの所いきなり2倍の8人だ。つまり消費する量が2倍。それなのに、お前達ときたら全くのただ乗りじゃないか」

 と言ってラクス、キラ、ステラと指差して、最後にシンで止める。意味もなく指差されるのは気分のいい話ではないけれど、いつになく切羽詰った様子にシンは生唾を飲み込んだ。

「早い話・・・金がない。金がないから補給できない・・・って事はつまり、食料や水が手に入らないってことだ!!」

 そう言えば、アプリリウスについてからは一仕事する予定だったんだっけ。ラクス達が乗り込んできたから予定が変わってしまったのだ。何より、目の前の空賊はここの所お宝についてはトンと不首尾が続いている。

「じゃあ、モンスターハントって・・・」
「賞金の掛かったモンスターを倒してお金を稼ぐことよ」

 ミーアが肩を竦めて飛空艇へと向かう。

「ちょっとそれ、空賊らしくないんじゃない?」
「仕方がないだろう。背に腹は換えられないんだ」

 そうか。賞金稼ぎって奴か・・・確かに空賊とは仲が悪い、お互いバカにし合っているもんなあ。シンやラクス達から見ればどっちもどっちだが、まだ空賊のほうがましだったのだろう。
 賞金稼ぎの何がそんなに嫌なのだろうとシンは思うが、ステラは違った。

「ステラ、モンスターハント好き。ネオも昔ハンターだった!」
「そうか。じゃあステラ、頑張ってモンスターを倒すぞ」

 ステラの頭を押さえて髪をぐしゃぐしゃとする。

「そうと決まればマイウスへ行くぞ。手っ取り早く稼げるモンスターを探さないと」

 ため息をついたラクスとキラも、食事が掛かっているとなれば反対するわけにはいかなかった。飛空艇で空路を翔るにも、陸地を徒歩で進むにも水は必要不可欠で、今まではセイバートリィの蓄えを使っていたのだ。非常食にいたっては完全にアレックス達の備品である。それを今まで何気なく口にしていたのだが、いつまでも続くはずがない。

「仕方ありませんわ。これも自立への一歩です」
「殿下。よろしいのですか?」

 一歩下がって王女に問いかける元将軍。かつてその位置には別の男が控えていた。

「ラクスでいいですわ。アプリル王国はありませんもの。ですからわたくしも将軍のことをキラとお呼びします。あなたの話を信じるわけではありませんが、伝えられているだけが全てではないことをわたくしも今は理解しております」

「ラクス・・・ありがとう」
「礼ならあの空賊に言ってください」

 ラクスの視線の先にはミーアと話し込むアレックスが居た。






 アプリリウスから南下した所に、交易都市マイウスがある。アプリリウスよりは小さいが大陸の中央部にあり、さらに南下すればどの国も支配が及ばない地域になる。街は様々な人種で溢れ平然と闇市が開催される、ハンターや無法者達が集う猥雑な街だった。

「治安が悪そうな街だ」
「早くハントとやらに出かけたいものですわ」

 飛空艇のターミナルでアレックスを待つシン達は、治安が悪そうだじゃなくて治安が悪いのだなとしみじみ感じていた。好奇心からアレックスをつけていったシンとステラは誘拐だのスリだのに何度も遭遇しそうになったのだ。
 へとへとになって逃げ帰ってきて、ミーアに言われたのだ。

「だから、危ないって言ったのに」

 ミーアはアレックスが森で収穫した牙や角を売りさばいてきた所だった。

「で、収穫はあったの?」
「ちょっとだけ・・・」

 アレックスが会いに行った人物の事をステラがコソッとミーアに告げる。別に疚しいわけじゃないし、女性に会いに行ったわけじゃない。けれど、ミーアとはまた違う親しさが滲み出ていたのだ。

「あぁ~情報屋のニコルね」
「知ってるのか!?」
「二・三度会ったことがあるわ。ぱっと見、女の子みたいに見える男でしょ?」

 シンは居酒屋でアレックスと親しそうに話す相手を思い出す。
 確かに、こんな危ない街にいて大丈夫なのかという風体だった。

「でもニコルか・・・心配だわ。ニコルは情報料が高いから、アレックスに払えるかしら?」

 ミーアが心配したとおり、件の居酒屋でアレックスは笑顔のニコル相手にため息をついていた。むしろ唸っていると言っていい。

「で、払うんですか、払わないんですか? ハントの情報だけで今日は止めときます?」
「分かった分かった払うよ。だから情報だ」

 にっこり微笑む情報屋は慈愛も斯くやという表情で、恐ろしいことをアレックスに伝えた。

 国境線がキナ臭い。
 アプリル復興反乱軍が組織されつつあると言う。なんでも、極秘に諸侯への呼びかけを行っているらしい。その中にはプラント帝国やコスモス連邦内の反帝国レジスタンスも含まれているというからやっかいだ。

「あのバルトフェルト侯が動きだしたのか・・・」
「これ以上放っておくと、新しい執政官がアプリリウスを万事うまく治め、それを民が平和だと受け入れてしまいますからね、決起の支持を得られなくなる」

 真昼の居酒屋、しかもオープンテラスで2人の若者が物騒な話をしているが、誰もその内容には気を止めなかった。皆が密談中で、この居酒屋は盗み聞きしようにもできない情報屋御用達だった。

「空路を封鎖されるとやりにくくなる・・・はあ、確かに高いだけの事はある」

 アレックスはニコルに代金を支払って指を組んで頭を乗せた。

「知っておいて良かったでしょ? 王女を腹に抱えている身としては」
「お前っ」

 ガバッとアレックスが顔を上げてニコルを見る。
 面白そうにその顔を見るニコル。男2人がテーブルを挟んで向かい合っているが、明らかに一方が押され気味。

「こっちはサービスです」

 差し出されたのは古い地図だった。羊皮紙に書かれた色あせてインクもかすれた大陸南部の地図はこれからハントに出かける地方のものでありがたいプレゼントである。

「すまない」
「全く、甲斐性のない主を持つと苦労します・・・ああ、復興レジスタンスの彼らの苦労が目に浮かぶ・・・」
「ニコル」
「分かってますって。でも―――僕がどう思うかは僕の勝手、ですよね。吉報を待ってますから」

 テーブルを去っていくアレックスが泣き笑いを浮かべていても、二コルは気にせず手を振っていた。

 この街を過ぎれば荒地が広がり、蛮族や凶暴な野獣が跋扈する地が広がる。点在するオアシスを結ぶ街道筋に賊が出たと噂が立ったのが半年前。その賊が実は猛獣だと知れたのは、果敢にも討伐に挑んだハンター達の貴重な情報で。

「ハントの対象はその猛獣だ」
「勝算は?」

「勿論あるに決まっているだろう」

 旅支度をするアレックスをキラが問い詰める。シンとステラはとっくに支度を終えていて、2人のやり取りを見ていた。

 あの2人って意外と仲悪いよなあ。
 そりゃ、空賊と元将軍だもんな。犬猿の仲なんだろうけど。

「ラクス、君は残って」
「いいえ、キラ。わたくしも同行しますわ」

 王女様を守るのが仕事だもんな。止めて当然だ。

 シンは同じように彼女を守っていたダコスタを思い出して、キラを見つめる。彼とは牢獄に捕らえられていたのを成り行きで助けてから、ほとんど一緒だった。どこか掴めない表情ながら、剣の腕は追随を許さず王女の前の道を切り開く。

 やっぱり、アプリル復興の為なのかな。
 彼がそれを口にしたことは無いけれど、きっとそうなのだろう。
 先頭に立って守っていた国の王女だ、彼にとっても希望。

「でも、ラクス!」
「いいじゃないか。自分の食い扶持は自分で稼ぐ。いい心がけだ」

 常に王女を守るキラと、ラクスを時に王女扱いし、時にただの一般人扱いするアレックスとは確かに気が合わないだろう。基本的なスタンスが違いすぎる。

「ですからわたくしも戦います」

 しかし、アレックスとキラはギョッとしてラクスが手にしたものに目を瞠った。白い手にあるのは細身の剣。装飾も何もない実用的で、なおかつ女の手に扱えそうな代物だった。

「何を考えているの!?」
「自分の身くらい自分で守れるようになりませんと、この先に進めないのですわ」

 基本的にキラはラクスの家来だから(滅びた王国とは言え)、彼女に意見することができず、誰かに『やめろ』と言って欲しくてその相手を探していた。一番効果的なのは今回のハントを言い出したアレックスだったが。

「それでは、出かけるとするか」

 キッとアレックスを睨みつけ、キラはシンを見てため息をついた。

「ここに前例がいるから無理もないか・・・」
「・・・なんだよ。俺のせいじゃないぞ」

 まるで責めるような視線を感じてシンは憮然とキラに言い返し、ステラの手を引いてアレックスの後に続いた。





 風がどこなく香辛料の匂いがした。
 赤茶けた大地とひび割れた大地、小高い丘にはブッシュが生い茂り、空は快晴。

 そして、猛獣。

 肝心のオアシスにたどり着くまでに、ミイラになってしまうんじゃないかとシンは重い剣を持ち上げた。限りある水はおいそれとは飲めなくて、額から流れる汗が恨めしい。

 巨大な蛇。
 巨大な鳥。
 なんだか知らないけど魔法を使う虎。

 俺だってまだそんなに魔法使えないのに!!
 ステラに白魔法を掛けてもらって何とか凌でいるシンは、今度は自分も白魔法を教わろうと思う。慣れないなりに必死に剣を振っているラクスに白魔法を掛けているのはキラ、ミーア、アレックスで。剣の持ち方から教わっていた頃に比べれば随分と様になってきたなと思う。

「せい! はい! や!」

 大蛇がどさりと地面に落ちる。
 胴を切り離されてビチビチと跳ねていた。

 とは言っても、その力はステラとどっこいどっこいで。慣れている分、ステラがまだ上だった。ネオがハンターだったからなのか、元は砂漠を越えて商品を運ぶ商隊だから、ステラは結構物怖じせずに獣達に向かっていく。

「あそこのブッシュで休憩しよう」

 ある程度進むと必ずアレックスが一休みを入れる。
 そこで地図を確認して、ミーアとこれからの作戦を練っているようだった。そんな事ができるのなら、初めからやれよと言いたい。地下水道とか鉱山とか飛空戦艦とか!

「でも、ターゲットの情報はよく分からないんでしょ」
「まあな。今まで腕利きのハンター達が挑んで逃げ帰ってきているらしいから、強いことには変わらないだろうが・・・」
「今日はまだ進むの?」
「そうだな・・・」

 日が大きく傾いていた。
 日が暮れてからが獣達の本番だ。

「ここで野営だな」

 シンはその一言を聞いて、一気に疲労が襲ってくるのを感じた。
 薪を囲んで座り込んでしまうと、根が生えたように立ち上がれなくなってしまったのだ。ミーアがどこからか木の実を探してきて、二つに割る。

 殺伐とした荒野に甘い匂いが漂った。

「わあっ」
「シンとステラで仲良くね」

 渡されたのは木の実で、中には白い果実と蜜があった。ペロッとなめてみれば甘くて不思議な味わい。ステラに手渡して、シンも口に含むとなんだか生き返った気がする。残りの半分をラクスとキラが分け合っていて、シンはミーアを見た。

「ミーアは?」
「アタシ達は慣れているから、気にしないで」

 アレックスはいいとしても、ミーアは本当にいいのだろうか。ちょっと気が引けて果実を頬張る手が止まる。すると、重たい石を転がしてきたアレックスがそれをどっかと置いたのが目に入った。

「ちゃんと口に入れとけ。ちょっと予定が押しているから、シン」
「なんだよ」

 アレックスは腰を下ろしてシンに手を伸ばした。

 なんだ、やっぱ自分も欲しんじゃないか。
 シンはやおら身構えて、木の実を抱え込んだが。

「バカ。お前の剣を寄越せ」

 剣?
 シンは訳が分からずに固まった。

「いいから見せてみろ」

 恐る恐る剣を差し出すと、アレックスが垂直に持って火にかざす。刀身は薪の炎を反射して橙色の細光を反射した。そして、彼の瞳が炎を映しこんで光る。

「やっぱり・・・だいぶやられてるな」

 荷袋から取り出した道具で、刃を叩き始めた。
 その仕草を見て、シンは彼が今からしようとしていることが分かった。鍛冶だ、いや、そんな立派なものじゃないけれど、アレックスはシンの剣の刃こぼれを何とかしようとしてくれているのだ。

「アンタ。そんな事もできるのか?」
「まあ、な。空賊やハンターをやっていれば嫌でもできるようになるさ」
「だって、アンタいつも銃だろ!」
「・・・・・・。銃弾には限りがあるし、状況によってはナイフの方がいい時もある」

 剣から柄を外して、指の腹を刃に滑らせる。粉のようなものを付けて指先でトントンと叩き落としていた。砥石を二つ取り出して刃に当てて研ぎだしたのを見てシンは驚いた。

 んな、無造作に。

「ちょっ!」

 しかし、返事はない。
 シンはしばらく見つめていて、視線を薪へと移した。既にステラは毛布に包まって寝ていて、その寝息を聞いたら急に眠気が襲ってきた。

「そこの2人も出して」
「え」

 シンよりもおそらくキラの剣の方が痛んでいるはずだ。何しろ仕留めた獲物の数が違う。アレックスの横にはキラの大剣とラクスの剣が横たわる。

「明日当たりに遭遇できるといいんだがな」
「そうね。この子達にはちょっと辛いハントね」

 意識が眠りに落ちる寸前、ミーアのそんな呟きが聞こえたような気がした。





 確かにちょっと剣が軽くなったかも・・・。

 翌日、襲い掛かってきた獣を一刀両断したシンは剣の刃をじっくり見る。見た目はそんなに変わらないようだが、確かに一振りしただけで刃がきれいになった。キラとラクスも心なし剣が軽そうに見えた。

「地図によればこの辺りだが」

 辺りを見回すシン達はここ一日ずっと見慣れた景色を視界に納める。地平線まで続く台地と、僅かな起伏には茂みがあり木がぽつぽつと立っていた。相変わらず香辛料の混じる風が吹いて、聞こえるのは馬車の音。

 は、馬車?

 耳を澄ますとガラガラと車輪が石ころを蹴飛ばす音がする。
 後ろを振り返ると荷馬車が街道筋を進んできていた。手綱を握っているのはまだ幼い少女・・・。ステラよりも幼いのではないだろうか?

 こんな子供がどうしてこんな所を荷馬車で通るんだ?
 シンは荷馬車の中に家族でもいるのだろうかと鑑み、俺達の野獣退治の後をつけて来たのかと訝しむ。

「君、危なくなかったか?」

 とりあえずアレックスが声をかけたが。

「あの、すいません。この辺りに村はないですか?」
「いや、俺達も向かう途中だ」
「そうですか。困りました、あの子達がお腹をすかせていて・・・」
「携帯食でよければ少し分けてあげられるわよ?」

 ミーアが鞄に手をかけるけれど、少女はシン達をぐるりと見回して首をかしげた。

「それには及ばないです。ちゃんとした食糧がいるから。みんな、ご飯の時間よーっ!」

 荷馬車の幌の中に首を突っ込んだ少女が顔を戻した途端、シン達の耳に届いたのはキャッキャッという笑い声。次々に姿を現すのは小さなトマトにカボチャにタマネギにマンドラゴラとなんだかよく分からない植物。膝まであるかどうか分からない人形が動いているのではないかと、野菜の人形じゃないかと思ってみても確かに動いている。

「もしかしてさ、ハント依頼のモンスターってこれかな」
「そうみたいだな」

 アレックスは腰に下げた薬莢を確認して、銃に装填していた。キラはキラで腰の剣を片手で抜いて、地面に突き刺して、どうしようか思案する体勢。
 そうこうする内に野菜たちはシン達の前に走り込んできて、思い思いのポーズを決める。中には転んで頭の野菜が転がった奴もいたが、シンにはもはや突っ込むことができなかった。

 ありえない。
 これが猛獣?
 幾多のハンター達が討伐しようとして果たせなかっただって?

「・・・うそだろっ!?」

 だって野菜だ。植物だ。
 そいつらに足が生えて手があって、動き回っている。
 思いっきり植物じゃないし!
 しかも、まずそうだし。

「そう驚くなよ。大抵話には尾ひれがついてでかくなるもんだ。蓋を開けてみれば大したことないってのはよくある話さ」
「まあ、よかったじゃない。早く片付けましょ?」

 アレックスとミーアが何気なしに退治に向かったが、その見通しはあっけなく崩れ去った。

 シンはぶるぶる震える手を押さえて剣を構えなおした。
 いや、構える暇などありはしない。小さいだけあって小回りが利く利く。

「くそっ、ちょこまかと!」
「当たれ!」

 怒りで肩を震わせるのはアレックスとキラ。

「あらあら、当たりませんわ!」

 どこか状況を楽しんでいるラクスはそれでも野菜たちの攻撃を受けてボロボロで、先程ステラに白魔法をかけてもらったばかりだった。全員掛りでやっとタマネギと変な植物を倒した所で精根尽き果てたシン達であったが、逃げ帰るわけにはいかなかった。

 この体たらくを説明できるわけがない。
 今までアタックして失敗したハンターのように、この街道に出没する獣が大変な猛獣だなどと言い訳するのが関の山。シンを初め、アレックスもキラも、誰もがそんな事を認めるわけにはいかなかったのだ。

 皆、負けず嫌いだったから。

「残りは全部俺が貰う」

 シンがトマトに空振りした後ろで張り合っているのはアレックスとキラで残った3体の内どちらが多く倒せるかで競っている。

「やめてよね。空賊ごときが僕に勝てるわけないでしょ」
「ごときってあのな。できるだけ頭の部分には傷つけずに倒すんだ」

 キラにジロリと睨まれたアレックスは、マンドラゴラを見て『あれは食べられるのか? 毒だが・・・ちゃんと火を通せば大丈夫か?』とぶつぶつ言っている。
 銃と大剣、どちらもすばやい物体には不利。アレックスの銃の腕もキラの剣の腕も超一流だが、頭に血が上った状態では実力を発揮するのは難しい。まして、食糧として見ているのでは。

 あの2人・・・何やってんだよ。
 アレックスも遊んでないで、ちゃんと指示出してくれよ、今回のハントを言い出したリーダーだろっ。

「ミーアさん、危ない!」

 カボチャの頭突きをラクスが目に留めて叫ぶ。
 その一瞬の隙をついてシンが振り下ろす。

 ぱっくり割れたカボチャは意外にもオレンジ色のおいしそうな実をしていて、シンはギシギシと歯をあわせる。種が並び、濃厚なカボチャの匂いがした。本当にただの野菜なのだ。見た目だけとか、野菜の被り物をしているわけではない。

 こんなもの相手に・・・。
 いい加減に―――俺は―――! 

 頭の中で何かが弾ける感覚がして、シンは残った2体目掛けて猛ダッシュしていた。
 逃げ回ろうが、動きを読んだから、トマトもマンドラゴラもシンの剣に吸い寄せられるように斬られていった。

 どうだ!

 あーすっきりした。

 静かになった荒野を見回すと皆がシンを見ていた。

「シン・・・お前・・・」
「すごい! シン」

 ステラがシンに抱きついて、ミーアが癒しの白魔法をかけてくれた。

「お手柄ね」
「驚きましたわ。火事場の何とかというものですか?」

 それとは違うと思うけど、シンは上手く表現できなくてしどろもどろになった。
 初めて活躍して注目されているせいかも知れない。アレックスよりもキラよりも自分が一番多く倒したのだ。例えわけの分からないとは言え、小さな動く野菜たちを。

 今まで数々のハンターが挑んで倒せなかった猛獣(?)を倒したのは自分なのだ。

 いささか飛躍したシンの脳も、肩に置かれたアレックスの手が意外と暖かかったから、誰も咎めるものはいなかった。幌馬車に乗ってきた少女がびっくりして一目散に逃げていく。

「倒した・・・ことになるのか?」
「多分。シンがね」





 手に入れた報酬でシンもキラも剣を新しく新調して、補給物資を山のように買い込んだ。マイウスの街道の猛獣を倒したのが、深紅の空賊見習いだったらしいと噂が駆け巡るのはそのすぐ後。こうして、シン達はようやくマルキオ教本山へとセイバートリィを発進させた。

 マルキオ教の本拠地は大陸南部にそびえる山で、山全体が特殊なフィールドで覆われているのか飛空艇では決して越えられない霊峰であった。セイバートリィを麓で降りて徒歩で入山したシン達を待っていたのは、教祖マルキオ。

「ようやくおいでになりましたね、王女」

 まるでラクスが来ることを初めから知っていたかのように、教団の奥の礼拝堂で待っていた年齢不詳の男。目を閉じ誰がその礼拝堂に入ってきたかを知る由もないのに、彼はきちんとラクスに向かってそう言ったのである。

「分かってんなら話は早いじゃん?」

 来ることが分かるなら、きっとその目的だって分かっているはず。
 シンはラクスに種石のことを聞けと言わんばかりに促した。ラクスが暁の種石を手に歩み寄る。マルキオ教の教祖はずっとそれを待っていて、少しだけ頭をかしげ、閉じた目でラクスの手の中の種石を見ているようだった。

 あんなで見えんのかよ。

「確かに神授の種石。王墓に守られていた暁の種石ですね」
「はい。マルキオ様。わたくしはこの種石の力を制御する術を探しているのです」

 少し笑って、教祖はラクスに視線を映した。相変わらず目は閉じたまま。

「残念ですが、この種石を貴方が使いこなすことはできないでしょう」

 種石を持つ手が震え、ラクスの長い髪が揺れた。

「おそらく、誰にもこの種石の力を統べることはできはしまい。種石とは神の力のカケラ・・・神に認められた者のみその力を手にすることができる」

 神の力。
 シンはいまいち抽象的な言い回しにラクスとマルキオ教祖を見比べる。そして、アレックスを見上げた。彼も眉をひそめて教祖を見ている。

「では、帝国軍の飛行艦隊を消滅させたあの力は?」

 そうだ。
 あの種石は艦隊を消してしまっている。
 あれはどうやったのだろうか。

「稀にシードが零れ出すこともあります。長年王墓の地下で蓄えられたシードが地上に出て不安定になったからではないかと。ジョージ・グレン王の御世から永き時を経ていた故」
「そんな・・・」

 なんだ、いい加減だな。
 最後の希望だったマルキオ教の教祖ですら、種石の使い方を知ってはいなかった。
 心なしうつむくラクスは、手の中の種石に視線を落としているのだろう。淡い青紫の光を宿す美しい石に。

 ただの美しい石なのか。
 それとも、王国復活の鍵を握る起死回生の力になるのか。ラクス達はそれに賭けているはずだった。シンにとっては帝国に反旗を翻す切り札になりえる物が生まれなかっただけ、本当は喜ばしいことなのに。

 せっかく、ここまで来たのにこれかよ!
 がっかりした気分になるのは、長く彼らと一緒にいたから親しみを覚えたからだろうか。
 亡国の王女と元将軍の背中を見つめる。

「申し訳ありません。歴代教祖の記憶の中にも種石の記録はそれほど多くないのです」
「そうですか。突然お邪魔してしまって申し訳ありません」

 直接使い方が分からなくても、そのヒントだけでも。

「何とかならないのかな」

「それはお前が考えることがじゃない」

 零れた呟きに返ってきた返事は、ここで聞くはずがない声で。
 ガチャガチャとうるさい鎧の音に顔を向ければ、シンの目が見開かれる。特殊な鎧、フェイスの文章が入った黒いマント。礼拝堂の重く大きな扉を開けて入ってきたのはフェイスマスター。

 な。どうして、ここにフェイスが!?

 キラがラクスを庇い、ステラはミーアにしがみ付いていた。彼女達の前にアレックスがいる。シンはただ突っ立って彼が歩いてくるのを見守っていて、兜を取ってシンを正面から見据える瞳には複雑な色が浮かんでいた。

 ディアッカ。何?
 シンは何も聞きたくないと思うのに、彼は口を開く。

「父君がお亡くなりになられました」

 瞬間、シンの周りの音が消えた。

「殿下におかれましては、至急帝都にお戻りなされますよう」




ザ・急・展・開☆って感じでそろそろ・・・ああ、まとまりのない文ですね。