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Men of Destiny 36

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赤を映す空



 ジブラルタルは前大戦時からプラント側が保有する宇宙港で、戦争が終わった4年経ってもそれは変わっていない。前大戦時に壊滅的な打撃を受けた事、コーディネーターの武力保有の禁止、プラントコロニー崩壊で事実上の国体解体に安堵した放置されてきた結果だった。
 こうした幸運が重なって指揮命令系統がずたずたでも、ジブラルタルは生き残った。民間宇宙港として細々と運営される傍ら、秘密裏に改修・増強工事を繰り返し、プラント独立宣言時にコーディネーターの宇宙への玄関口として再び姿を現したのである。


 何かと話題となっていたミネルバが砲火を潜り抜けて到着し、ジブラルタルは沸き返っていた。加えて、直前の戦闘でアークエンジェル搭載機を一機落としたと報じられ、その映像がすぐさま世界を駆け巡った。
「こんなもの、いつの間に」
「空中管制機でしょ?」
 一躍時の人になったシン達は、ミネルバが船体を休める3番ドッグから離れたある施設の前にいた。そこの壁に取り付けられたモニタで各チャンネルのニュースを流している。
 平和維持機構の艦載機と言えば数も少なく、形色から言ってどの局でもそれを大戦の英雄・フリーダムだと結論付ける。平和維持機構の象徴が落とされても、地球軍側、プラント側相方とも戦局に影響はないとコメントしていた。それは日々変化する情勢を端的に現していた。


「ところで、シン。こんな所に何の用なのよ」
「ちょっと、さ」
 向こうから来るトラックをずっと見ている。メイリンとステラが艦内で留守番して、シンとルナが外に出ている格好。銃を持った兵士に連れ添われてあわられたのはミネルバにいた捕虜の男だった。
「よう。聞いたぜ坊主、お手柄だったな」
「さっさと歩けっ」
 両腕を前でつながれた捕虜の男は短く借り上げた髪も髭も幾分伸びた容貌で、シンは初めてその男の顔をまじまじと見つめた。
「なんだ、じろじろ見るな。今いい男が台無しなんだからよ」
「これから、どこに」
 じろりと銃を持った警護の男に睨まれる。
「知るか」
 施設の中へと連行されるのか、シン達の前を通り過ぎる。各地で捉えた地球軍の捕虜ばかりを集めた施設なのだろう、窓という窓に鉄格子がつき、監視の男達が武装して大勢いる。
「俺の娘が」
 少し通り過ぎて、男が足を止めた。連行する男が銃で突付こうとして、急に怯む。どうやら、ルナがじろりと睨んだようだ。
「生きていればお前と同じくらいだ」
 シンは息を呑む。
「死ぬなよ」
「あっ、あんたは」
 ミネルバの捕虜だったその男に死ぬなと言われて、シンは少しうろたえた。なんと答えたらいいのか分からない。今まで散々愚痴を言った相手で、他人、地球軍の敵兵ではないからか。
「サトーだ。じゃあな」
 施設の中に消えていく背中をシンとルナは無言で見送った。
 あんたも無事で。とは言えなかった。この先、彼がどうなるかは分からない、この戦争が終わった時、お互い無事であるかどうかも分からないのだ。
 おそらく、もう会うこともないだろう。
 ミネルバは地球派遣軍からプラント宇宙軍に編入されるのだ。


 宇宙港で久しぶりにのんびり過ごしたシン達は、揺れないベットでの睡眠にだれきった数日後、召集を受けた。集まるように言われていた宿舎でシンはステラやメイリンの出で立ちに持っていた紙袋を落としそうになる。
 かわいい、かも。
 二人は支給されたばかりの制服を着ていたのだ。プラントの軍服である。メイリンが着ているのは薄いアーミーグリーンの軍服で、上着とタイトスカート、それにハーフブーツ。
「ちょっと、ステラ。あんたいいの?」
 気が付いたのはルナマリア。上着しか着ていないとは言え、軍服は軍服。
「ステラ、ミネルバ残るから」
 これからミネルバは正式に軍艦としてプラントの宇宙軍司令部の指揮下に入ることになる。民間人扱いのステラは乗っていられないのだ。捕虜のサトーと同じように艦を降りるか、解放されて自宅へ帰るかである。
「で、艦長はなんて?」
 メイリンがルナに説明するには、本当は帰るべきところに帰るほうがいいと最初は言ったのだという。しかし、ステラ自身がそれが分からないと来ては無下に追い出す事もできない。かとって民間人をこのまま乗せておく事もできないから。
「シンと同じ軍属に?」
「ミネルバの現地徴用兵扱いだって」
 俺に同意を求めるなよ。シンは受け取った自分の制服を紙袋から取り出す。
「げっ」
「赤って・・・派手ね」
 シンに与えられた軍服はなんと赤色。ちょっと軍服としてありえない色だった。出しかけた上着をまたしまう。周りを見てもこんな色を着ている人はいない。
「さすがエースは違うわね~。あっ」
 ルナが笑いながら持っていた袋を開けて、固まっていた。シンを見てそろそろと軍服を取り出した。
「お姉ちゃんまで、真っ赤っ赤」
 シンとルナマリアに支給されたのは真っ赤な軍服だった。袖を通そうかミネルバに戻るまで着ないでおこうか二人が逡巡している時、ジブラルタルに警報が鳴り渡った。


 複数のスピーカーから流されるサイレンが、もう、うるさいくらいに頭上で響く。右往左往する人のせいでミネルバに戻るのに時間がかかり、情況を確認するのに手間取った。
 3番ドックで修理中のミネルバもてんやわんやで補給と修理が急ピッチでフル回転。
 慌てて格納庫のモニタからブリッジに連絡を入れる。
「襲撃!?」
『地球軍の攻撃空母多数です。ジブラルタル守備軍がスクランブルで出動。本艦は出航準備を急ぐようにとの艦長の指示です』
 いち早くブリッジに急行したメイリンがモニタに出た。言い終わらないうちに頭上を飛ぶ戦闘機の爆音。言うまでもなく攻撃が始まった。
「援護に俺も出るっ」
「お前の機体はたった今搬入中だろ!? お前も手伝えよっ」
 走りまわるヨウランとヴィーノが喚く。
 フリーダムとの交戦で爆破したため、ミネルバは新しく戦闘機を補充される予定だが、遅れているためシンはまだコックピットに入ってもいない。
 足元が揺れて、艦ごとドック全体を揺るがす砲撃。
 続いてミネルバのエンジンの駆動音。
 援護に出るのは諦めて、シンとルナは格納庫の物資の搬入、固定を手伝う。港に積まれたコンテナを手当たり次第に積み込んで、もう足の踏み場もない程散乱している。
「シン!」
 修理中のルナの戦闘機を固定していると、エイブス主任がシンを呼んだ。
「立ち上げをするから、ちょっと来い」
「立ち上げって?」
 いつになく厳しい顔の主任がまだ梱包材をつけままの戦闘機を見上げた。少し小ぶりだが、明らかに普通の戦闘機とは違うフォルムのその機体。
「もしかしたら、こいつの出番が来るかも知れん」
 分厚いマニュアルを渡されて、シンはその機体を見上げた。
「これが・・・新しい機体?」
 立ちすくむシンを尻目に主任はてきぱきを安全シールドを取り外していく。その間にも爆音は続き、振動は止む事がない。揺れる体を支えながら、火器に取り付けられた安全タグを引き抜く。
「操縦方法はほぼ同じ。違うのは機体の反応速度だけだ。エンジンの燃焼テストもしていないし、照準はおろか何の調整もしていないが・・・シン、お前ならできる」
 シンはマニュアル片手にコックピットに乗り込んだ。
 始めて乗り込む新しい機体に火を入れる。
 何がお前ならできる、だ、と愚痴は入れない。エレベータまでの道が空いている。すぐそばで主任を初めとするメカニック達、ルナやヨウラン達が見上げていた。
 自然と腕が上がって、前進するとサインを送っていた。そして、敬礼。


 ドックから飛び出したシンが目にした光景は、立ち上る火柱と黒煙。迫る敵艦と敵戦闘機の嵐だった。パーソナルカラー機が数多く飛び、応戦する守備隊も押され気味。宇宙へと飛び立つためのマスドライバーを死守しているが、緊迫した局面である事には違いない。何せ、圧倒的に数が多いのだ。
 コーディネーターの操る戦闘機に比べれば、性能に劣るものの物量で勝負してくる地球軍は毎々投入してくる量が半端ではない。シンは低空を飛びながら、機体のチェックを始めた。一通り目を通したところで、敵攻撃空母の中に違う毛色のものを見つけた。一番奥にいて、一艦だけなんの行動も起こしていない、アタッククルーザー。他の空母よりやや小ぶりだが、黒を多く配色した船体。
 アークエンジェルに似てるかも知れないと思う。
 シンが注視する中、その戦艦から一機戦闘機が飛び出した。
「なっ!?」
 瞬く間に守備隊の機体を落としていくありえない動きに目を見張る。
 エクステンデットか。
 数機が対応すべく向かっていくが、瞬時に落とされていた。
「早いっ」
 既視感は一瞬のこと、まるでフリーダムに劣らない動きに驚く暇はなく、シンの機体の横を通り過ぎる。
 紅の機体がすれ違う瞬間、シンはスローモーションのように時間がゆっくり流れるのを感じる。なぜか攻撃されないという確信があった。
 通り過ぎた背後で、ジブラルタルの地上砲台が軒並み煙を吐く。
 あっという間に姿が見えなくなり、次々に空に爆発が起こった。HUD上でどんどん消えていく寮機のサインにシンは紅い機影を探した。


まあ、なんと言うかありがちな王道展開目指してますんで、当然こうなります。

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