<<リーダーより各機へ。弾の無駄遣いはするな。統合軍の奴らは数だけは多い!>>
<<俺たちは少数過ぎるけどな!>>
<<無駄口叩いてないで、くるぞ>>
空間レーダーを真っ赤に埋め尽くす光点が全て敵だった。
SD598 ラスコー衛星都市での反乱は勃発より3ヶ月を迎えてなお、沈静化の兆しを見せていなかった。連度の高い守備隊と天然のデブリ帯に守られ、今だ持ちこたえていたのだ。転機を見せたのは598年も10月に入った頃。都市防衛ラインでの小規模な宇宙戦闘機どうしの戦闘が散発的に起こり、両陣営睨みあいが続いた後の久々の会戦にラスコー宙域にはデブリと妨害電波が蔓延した。
<<アルファ小隊がやられた!>>
<<けつにつかれるぞ!? おいっ>>
<<駄目だ。振り切れねえ、くそっ>>
HUDでは確認できないが敵統合軍マークのその戦闘機は、一気に距離を詰めると一撃でエンジンを打ち抜いていった。流れるように機体を滑らせて爆発を潜り抜ける。相棒の生存確認よりも、ラスコーの反乱軍パイロットは目を瞠った。
赤い戦闘機がいる。
統合軍カラーは黒か青だ。
友軍かと問うまでもない、敵も敵、真っ黒だ。
<<リーダー! メンバーズがいるっ!!>>
<<なんだとっ・・・本当か、見間違いじゃないのか>>
しかし応答はない。
気がつけば半分に減っている味方のコールサイン。戦闘機だけではない、右手で派手に戦艦が爆発していた。思い出す、とある国家騎士の噂を。冷徹までに命令を実行する深紅の軍服に身を包んだメンバーズ。大人しく指揮をとるだけだと思っていたが。確認しても国家騎士団カラーの戦艦は見つからない。
<<単騎でかよっ!上等じゃねぇか>>
<<よせっ。近づくんじゃねぇ!>>
血気はやった部下が向かっていくが、HUD上で味方が音もなく落とされていく。そこにはパイロット達の叫びも命の欠片も届かない、ただ寂しく一つ光点が消えるのみ。落とされたのが人間なら、落としたのも同じ人間であるのに。
こいつが。
<<殺人機械!>>
反乱軍リーダーは目を見開いた。
文字通りHUDごしに、愛機のキャノピーの向こうに目を瞠る。やけにゆっくり、キャノピーを悠然と横切る真っ赤な機体は。統合軍が主力とするワルキューレMk-2。所属は7th Order。いつかは乗ってみたいと思っていた機体だった。所どころフォルムが違うのは装備かカスタムか。しかし彼、反乱軍のパイロットがそれを確認することはなかった。
迎撃されたことさえ分からずに爆散する反乱軍機。
デブリと爆発の向こうに消える赤いワルキューレ。通り過ぎた後には無残な戦闘機の残骸がデブリと共に残る。ラスコー衛星都市は守りを失って統合軍の攻撃を受ける。1週間後降伏。ラスコーの反乱は終結を見た。
この反乱鎮圧に投入されたメンバーズはキース・アニアン上級少佐と言う。