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イザークさん誕生日おめでとう

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イザーク誕?



 遠くの空が光っていた。雷とは思えない程明るく光って、稲妻よりも赤い。学校の用事で遅くなってしまった上に、近づく台風のために辺りはすっかり真っ暗だった。駅からの帰り道、夜空を流れる雷雲に遭遇する。
「エイリアンでも降ってきそうだ」
 昔見た洋画を思い出して、なんとなしに呟くが、勿論宇宙人が降ってくることはない。落ちるのは稲妻で、明日の新聞にその被害が載る位だろう。はあ、とため息を付いて、お腹が空いた事を自覚したアスランは、嵐の前の空を見上げながら家へと急ぐのだった。
 その角を曲がれば自宅・・・と言う路上で、空気を奮わせる音がドーンと鳴り響く。雷光とともに轟音を立てて落ちた雷。思わず硬くしてしまった体の力を抜いて、再び歩き出す。
「うっ!?」
 ギョッとしたのは、目の前に、男が蹲ってまっていたからだ。
 道の真ん中に、突然、煙を立てて。

 無視して通り過ぎようか。
 そんな事を考えて、小さなうめき声が聞こえた。
「えっと・・・大丈夫?」
 カバンを抱えてそろりと近づいた。このまま、何かあったら気分が悪いするし、見て見ぬフリができるほど、器用な性格でもない。アスランの呼びかけにも反応がなく、それでも路上についた手が震えているのを見てもう一歩近づく。上半身を折って覗き込もうとした時、すっと手が上がった。
「!?」
 とっさの事で反応できずにいると、ひんやりとしたものが手首を掴む。
 心臓が飛び出るほどびっくりして、慌てて後ずさろうとした。声を上げることも振りほどくことも忘れて、目を見開く。
 青い点が二つ光っている。
「・・・仕方ない・・・」
 と、聞こえたのもつかの間、目の前の影は、夜の闇に融けるように消えてしまった。手首にあった冷たい感覚もすっかり戻って、心なし暖かく感じる。あたりをきょろきょろ見回して人影がない事を確かめると、アスランはもう一度自分の手のひらを見た。
 キュッキュッと握って開いて、何も異常がない事を確かめると、軽く肩を持ち上げてすぐそこの自宅の玄関を潜った。



 自分の部屋でカバンをベッドに放り投げる。
 アスラン・ザラ。17歳。花も恥らう女子高生であるが、その身を包むのはジーンズにTシャツ。夏休みの集中講義に制服は必要なく、エアコンのない教室で生徒達は思い思いの格好をしていた。
「あー、疲れた」
「アスラーン。早くいらっしゃーい」
 着替えを済ませて、リビングに行くと母が夕食を温めなおしていた。父の帰りはいつも深夜近く、大抵が2人だけの食卓である。その日も母とニュースや天気の事を話題に食事を済ませれば、今日という日が終わるまでにそう何時間もあるわけではなかった。
 何事もなく終わるはずの8月8日が特別な日になったのは、この後、彼女が湯船に浸かっている時だった。
 曇ったガラスに体が映らないことに安心して、湯船の端に頭を乗せて、足を出す。こうすると身体の隅々まで疲れが取れるような気がして、アスランは目を閉じる。いつものように寛いでいると、突然頭の中に響く声。

『・・・キ・・・貴様。貴様、女だったのか!?』

 切羽詰ったとはこの際、言わないでおこう。
 聞き覚えのない男の声が聞こえた。無い胸を隠してアスランは湯船に沈んで頭をこっそり出す。
「誰。まさかのぞっ」

『んなわけ、ないだろう!』

「・・・どこだ」
 バクバクと打つ心臓を押さえて、考えを巡らすが、バスルームの窓では覗けないことを思い出した。では、侵入者か。ドアが開く音はしなかった。用心深く気配を探って安全なことを確認すると、いそいそとバスルームを後にする。パッパとパジャマを着て、そろりと自室へと舞い戻って鍵をかけた。
「何だったんだ?」
ベッドに倒れこんで、ごろりと天井を仰いだ。洗いざらしの髪が枕の上に広がって水滴を吸い込んでいく。一度横になってしまうと現金なもので、ストンと眠気が襲って来た。
『おい、貴様、ちゃんと髪を乾かせ!』
「うるさいなあ、もうーーー?」
 アスランはガバリと身を起こしてじいっと部屋のドアを見つめた。鍵をかけた事を反芻して、瞳だけで部屋の中を見回した。
「誰か・・・いないよな? 何なんだよ、疲れてるのかなあ」
バタンとベッドに倒れこんで、はふと欠伸をした。
『歯も磨けと言っている!』
 アスランは今度こそ下敷きにしていた夏蒲団を被って目だけきょろきょろさせて部屋の中を伺った。
 声が聞こえる。けど、姿は見えない。
「まさか・・・透明人間!?」
『違う』
「幽霊とか」
『外れだ』
「どこにいる・・・」
『お前の中にいるぞ』
「は?」
意味が分からずにアスランは布団の中でうずくまって動くことができなかった。物音一つない部屋の中で、目覚まし時計の音だけがカチカチと時間を刻む。蛍光灯の冷たい光が部屋を照らして数分。

『悪い。同化しているんだ』

 アスランは布団の中で固まってしまった。



 カバンを机の上において、ため息をつく。もう何回もため息をついて、逃げる運が一つも無くなってからも、ただため息をつき続けた。
「冗談はよしてくれって」
部屋の姿見にパジャマ姿の自分が移っているが、声の主の姿はそこにはない。彼曰く、(声や話し方から言って彼だと言う事は分かる)自分は姿を保つことができないので、彼女の体を借りているのだという。力を取り戻したら分離できるからそれまで厄介になると告げた。
「宇宙警察・・・何それ」
『だから、何度も言わせるな。宇宙警察ではない。銀河を管理する特別宇宙捜査官、ユニバーサルポリスだ』
「そのユニバーサルポリスが、どうしてここにいるんだよ」
お決まりの悪党を追って事故に巻き込まれたとか言うつもりじゃないだろうかと、他にも良くあるシチュエーションを考える。後一歩で逮捕できる所を敵の反撃に会い重症を負うとか、実は地球にものすごい宝が眠っているとか。
『発想が貧弱だな』
「悪かったなって、お前、俺の思考を読んだな!?」
『当たり前だ。貴様と同化しているんだぞ?』
「あーはいはい。で、どうすれば力が戻るんだ?」
急に黙りこくった声に、アスランは鼻で笑って今度こそ寝る準備を始めた。窓の施錠を確かめて目覚まし時計をセットする。明日の補習の内容を確認して辞書やノートをカバンに入れる。
「人間を食べるとか言うなよ、宇宙人」
『その呼び名は気に入らん。俺たちは地球人よりずっと高度な知的生命体だ』
「じゃあ、その知的生命体は何をご所望ですか」
『・・・・・・。』
「言えない様なものか?」
『ああ。絶望的だ。』
「そっか。ついてなかったな」
『全くだ。どうして俺がこんな辺境のしかも、男女に世話にならねばならん。栄えあるジュール家の、ユニバーサルポリスの、今日で成人し、ジュールの名を継ぐ俺が!』
 プライドの高そうな男だとアスランは頭の片隅で思う。考えを読まれてしまったとしても、思ってしまったものは仕方がない。
「残念だったな。そう焦るなよ、そのうち元に戻れるさ、えっと・・・」
『イザークだ。イザーク・ジュール。アスラン!』
 自己紹介をするつもりはなくても、相手はちゃっかり名前を覚えてしまったらしい。それはそれで悔しい気もするが、アスランは動きを止めたがっている自分の頭の欲求に素直に従うことにした。
 同化・・・って、ちゃんと眠れるのかなあと一抹の不安が過ぎる。
「今日はもう寝よう。騒いでいたって解決するわけじゃないし」
『おい、貴様にはまだ聞きたいことがっ!』
「何だよ。俺は眠い」
『だいたいお前、女のくせに俺と言うなっ』
 眠たい頭でもカチンときたのかアスランは半分閉じた目で動きを止めた。
「うるさい。何て言おうか俺の勝手だろっ!!」
『この俺が同化するんだ、こんな中途半端なことは許さん』
 中途半端・・・。一番自分が嫌という程分かっていることを、見ず知らずの宇宙人に言われたくないとアスランは口をへの字に曲げた。なんとかしたくてもできないこともあるのだ。勉強ができても、運動ができてもこればっかりはどうしようもない。
「悪かったな中途半端で・・・でも、お前だって今更元に戻れないんだから我慢しろよ」
 アスランは強引に部屋の電気を消す。あれほど激しかった雷雲もすっかりどこかへ言っていて、カーテンの向こうにはただの夜の空が広がっているばかりだった。
 冷たく言い放った声にか、それとも胸のうちを読んだのか、イザークは今度は怒鳴り返さなかった。少しの沈黙が降りてアスランは布団に潜り込んだ。
「もう寝る。お休み」
『おい、アスラン!』
一方的に会話を打ち切った彼女に、やはりイザークが黙っていない。
『勝手に寝るなっ!』
「居候の分際で人の睡眠を妨害するなっ!」
『大人しく眠れると思うな。俺はお前と同化しているんだぞ!』
 同化がなんだ。アスランは居心地のいい体勢に落ち着くまで、寝返りをうって布団を体に絡ませる。頭の中で聞こえる声を遠くに聞きながら枕に顔を半分埋める。
「話なら明日・・・聞くから」
『こらっ、ちょっと待てっ』
「ああ、そうだ」
 半乾きになった紺色の髪が散らばって、眠りに落ちる寸前、小さく開いた口から声が漏れた。
「イザーク・・・誕生日おめでとう」
同化したイザークが息を呑むことはできなかったが、やや暫くして紡がれたありがとうの言葉が届くことはなかった。




アスランが言われていることは、毎日管理人が言われていることです。あ~、時間があればもっとちゃんとしたお話にしたいのに。拍手はおろか、ネタの種レベルとは。とほほ。


カテゴリ: [ネタの種] - &trackback() - 2006年08月08日 23:55:02

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